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第8話

そこから先はよく覚えていない。 多分、意識がぶっ飛んだんだと思う。 「…ん…ッ…」 目が覚めたのは、相変わらず馬鹿デカくて弾力性のあるベッドの上だった。 「…蹴人、起きたのかい?」 「…あぁ…」 ベッドには八神が運んだとしか考えられない。 アラフォーのおっさんがよくやる…と毎回運ばれるたびに思う。 身体もスッキリしているから、八神が後処理をしたんだろう。 ベッドに寝ていたし、身体はスッキリしているし、一瞬夢か?…とも思った。 いや、夢だと思いたかった。 自分からケツ突き出して誘ったなんて笑い話にもならない。 下半身には鈍い痛みがある。 夢じゃない事の証拠が突き付けられた気分になって苦笑した。 少し髪の濡れた八神が近付いてきて、ベッド端に座ると、指先が頬を掠めた。 「ごめんね、無理をさせすぎてしまったね…」 「別になんともない。…それに、俺から………」 誘ったんだし…と言う筈だったが、自分でもよく分からない程ゴニョゴニョしていた。 「嬉しかったよ。君から求めてくれた事が、なによりも嬉しかった…」 俺さえも分からない部分を聞き取るところがなんとも八神らしい。 俺は、多分八神とヤる度に求めてる… 分かってる。 ただ、それを認めたら俺が俺で居られなくなる気がして怖い。 その気持ちを誤魔化しながら、流されるフリをして逃げ続けている俺はズルい… 「仕方ないだろ、久しぶりだったわけだし。…そもそもお前が無駄にベタベタ触るのが悪い。」 「おや?触れてきたのは君の方であったと記憶しているけれど?」 八神はクスクスと笑った。 「それは、お前の記憶違いだ。」 「ふふ、ではそういう事にしておこうか。俺が触れるだけで、君があのように求めてくれるのならば、俺はいくらでも君に触れるよ。」 「…バカ。」 ピロトークみたいだ…と思ったところでムードもなく腹が鳴った。 そのマヌケな音に八神が小さく笑って、俺は腹を抱えながら恥ずかしいやらなんやらで身体が熱くなるのを感じた。 「とても君らしいね。今日の君はいつもと違っていたように感じていたのでね、少し安心したよ。蹴人、シャワーを浴びておいで。なにかお腹の足しになるものを作っておくよ。」 「…ん、頼む。」 ベッドから立ち上がった瞬間に膝から崩れた。 俺を支えたのは八神で、俺は凄く情けない気分になった。 毎回よくも立てなくなるくらいヤってくれるものだ…と呆れる。 今回のは体勢も体勢だったし、足に負担が掛かっていたのかもしれない。 「大丈夫かい?」 「大丈夫だ。…もう離せ。」 八神から離れてヨロヨロしながら立ち上がり歩き出した。 その途中、少し離れた玄関付近の廊下の方に目をやると、さっきのまま脱ぎ散らかした八神の服が散乱していた。 多分、俺がシャワーから出てくる頃にはコレも綺麗に片付けられているんだろうと思いながら洗面所へ向かった。 足元がヨロヨロしている。 素直なヤツだったら連れていけと言うんだろう。 でも、俺にそんな事が出来る訳がない。 無駄にイライラして、洗面台に強く拳を叩き付けた。 その後残ったのは、拳に感じた鈍い痛みと逃がし方の分からない感情だけだった。

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