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第26話

涙が滲んで、八神の顔がよく見えない。 感覚からしてそう深い場所じゃないと思う。 このまま一気に腰を下ろせばいいんだろうが、怖い… こないだみたいに、性欲に流されるがまま自分から受け入れる事も出来るんだろうが、今は違う。 状況が違う。 八神が甘ったるい声で誘うから、八神が優しく触るから、八神が無駄な色気出すから… 八神が、八神が、八神が… そうやって全部八神のせいにしてきた。 折戸さんの言った言葉は的を得ていて、だからストレートに突き刺さった。 流されているだけじゃダメなんだと… きちんと、俺からも求めないとダメなんだと… 「…蹴人、もう少しだけ自分で頑張れるかい?…」 「…ん…ッ…」 コクコクと首を縦に振った。 だっさ… こんなのは俺じゃない。 でも、これも俺だといい加減認めないといけない。 「…よい子…。頑張れたなら、その時はご褒美に…俺も動いてあげるよ…」 ゆっくり腰を下ろしていく。 進む度に奥がメリメリ痛みを伴って抉じ開けられる。 「…ん"…ぐぁ…」 普通、いちいち痛がられたら気分が削がれて萎える。 前戯が面倒くさいのもあるが、痛がられるのも処女が毛嫌いされる理由の一つだ。 俺は女でもなければ、処女でもない。 散々受け入れてきた筈だ。 「…んッ…そう…上手だね?…」 八神の男のクセに無駄に綺麗な指先が腰を撫でる。 それだけで、身体がビリビリ痺れた。 「…も、…動け…限界…」 「…そうだね。俺も…限界かも…ッ…」 折角頑張って挿入れたチンコが、八神が腰を引いたせいでギリギリまで引き抜かれた。 それだけの動作がどうしようもなく感じる。 そして、ズンッと一気に奥まで突き上げた。 目の前でチカチカ火花が散ったような気がした。 「かはッ!…ひ、あ"ッ…あぁぁッ!!」 衝撃に仰け反るりながら、ビクビクと身体を震わせながらイった。 「…ふふ、お尻で達したのかい?…初めてだね…可愛らしいよ…」 仰け反った俺の背中を支えながら八神が言った。 最悪だ。 死んでもケツでなんかイくものか…と守り続けていたものが簡単に崩された。 でも、少しだけホッともした。 もう俺には八神との関係において、守る物が無くなった。 砦も壁も総崩れだ。 繋がったまま八神の上に倒れ込んだ。 そんな俺を労う様に八神が撫でた。 「…はぁ、は…ぁ…バカ…なんて事、してくれたんだ…お前…」 「…蹴人の奥…とても吸い付いてきて、可愛らしい…そんなにも、欲しかったのかい?…」 「…黙れ…急に…痛いだろ、バカッ…」 こういう時でさえ可愛い言葉の一つも言えない自分が嫌になる。 「可愛らしい…本当に君は…どこまでも可愛らしいね…」 こんな俺を可愛いと言う八神はイカれている。 八神はどうしようもないくらい幸せそうに笑った。 不覚にも、そんな八神を可愛いと思った。 どうしようもなく、可愛いと思った。 つられて俺も八神に笑いかけそうになって、慌てて顔を引き締めた。

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