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第1話

蹴人と気持ちが通じ合った… 俺は信じてやまないけれど、実際愛していると直接言われたわけではない。 俺は今、出張で海外に居る。 不安な気持ちを引き摺ったまま… 俺はただ、言葉が欲しかった。 たった一言聞かせてもらえさえすれば、このような不安な気持ちを育てずに済んだのかもしれない。 出張当日まで聞き出そうと粘ったけれど、結局聞けぬまま旅立つ事になった。 帰ろうとする蹴人を、何日も引き留めて帰さなかった。 蹴人も帰ろうとはするものの、俺が引き留めると拒否をする事もなく居続けた。 以前であれば、俺が引き留めてもその手を振り払い帰ってしまっていた。 気持ちが通じ合った日を境に、俺達の関係は変わりつつあった。 しかし、そこに愛情が存在しているのかどうかは定かではない。 少なくとも、俺は蹴人を愛している。 誰よりも深く… けれど、蹴人は俺を愛してくれているのだろうか… キスに応じ、身体を許してくれている… その事だけでも満足しなければならない事くらいは理解している。 更に言葉を欲しがる事は、贅沢なのだろうか… 求めすぎているのだろうか… 俺は、そのような気持ちを抱えながら異国の地に居るのだ。 当初、二週間の予定であった出張が長引いている。 その事が、俺をより焦らせていた。 確信も得られないままに蹴人と離れてしまった。 この数週間でもしも蹴人の気持ちが離れてしまったとしたならば… 浮かぶのはネガティヴな事ばかりだ。 スケジュールをこなし、部屋で一人になるとそのような事ばかり考えてしまう。 今回の出張に、折戸は同行していない。 折戸ならばこのような状態の俺に容赦のない喝を入れるのだろう。 折戸の代わりに同行してくれているのは三枝さんだ。 彼女の事は信頼している。 けれど、折戸のように俺に渇を入れる事は出来ない。 結局俺は、折戸壱矢という存在に甘えているのだ。 蹴人に会いたい… 心も身体も俺で満たしてしまいたい… 俺の形を忘れられなくなる程に覚え込ませたい… その場所にお腹が膨れる程に注ぎ込みたい… その口元から溢れる甘い声を聞きたい… 潤んだ熱い視線で見つめられたい… 蹴人… 蹴人蹴人蹴人… 愛している。 蹴人など、俺に溺れてしまえばよい… もがく程に溺れてしまえばよい… 恋しい… 溺れているのは俺の方だ。 たったの数週間が堪えられなくなる程に溺れている。 このような俺を蹴人はどのように思うだろうか… 情けないと、嫌われてしまうだろうか… 「…ッは、ぁ…」 気づけば俺の手は自身を握り扱いていた。 先走りを滴らせながら、擡げるソレを強弱をつけながら扱く。 蹴人の身体、声に表情… まるで目の前に蹴人が居るのではないかと思う程に鮮明だ。 「…蹴人…ッ…」 絶頂が近い。 いけない事をしている自覚はある。 自らの手で愛おしい人を穢すような行為だ。 しかし、もう止めることなど出来る筈がない。 「…ッ…く…」 身体を撓らせ、達した。 呼吸を乱しながら、指に纏わり付く白濁を目にし、感じたのは虚しさだ。 満たされる事は決してなかった。 大の大人が… 最愛の人を思いながら自慰行為に耽るなど… 「…何をしているんだ…俺は…」 会いたい… 恋しい… 声が聞きたい… そして… 触れたい… 心、身体、全てが… 欲しい。

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