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第6話

目が覚めた場所は俺の知らない場所だった。 当然、俺の家でもなければ、泊まっている部屋でもない。 身体を動かそうにも、上手く動かす事も難しい。 動かそうとすると手首や足首に何かが擦れて軽い痛みが走った。 この状況から察するに、自分が縛られているという事が分かった。 上半身が肌寒い… 「目が覚めたか?」 「…音羽社長…」 「貴方があまりにも鈍感だから、力尽くで分からせてやろうと思ってな。」 「…どうするおつもりですか…」 「此の期に及んでまだ崩さないとはな…」 この男の頭はおかしい… いや、俺がこの男を甘く見すぎていた。 このような状況になり、俺は初めて折戸の言っていた意味を理解した。 しかし、もう遅い。 折戸が危惧していた事は、もう起こってしまっているのだから… 「…音羽社長、お遊びが過ぎます…離してください。」 「離してもらえるとでも思ってんのか?」 音羽社長の手が乱暴に俺の前髪を掴んだ。 「ッ…」 「…まぁ、泣き叫びでもすりゃ考えてやらんでもないが、貴方は絶対にそれはしないだろ?」 当然そのような事をするつもりはない。 例え、この先の行為を止める為に与えられた選択肢であったとしても、それだけはしてはならない。 俺がしないと分かった上での発言だと思うと余計に怒りが込み上げてくる。 「…痛いです…音羽社長。離してください…」 音羽社長が手を離さない事くらい分かっていた。 案の定、音羽社長の手は俺の髪を掴んだままだ。 「大人しく俺のものになるなら離してやるよ。」 「…首を縦に振るとでも?…」 音羽社長の舌打ちが聞こえた。 刺激してはいけない… 「黙れ!!」 その台詞は、蹴人を思い出させた。 黙れ… それは蹴人の口癖だ。 このような男に使われたくはない。 その言葉を俺に言ってよい人は、蹴人だけだ。 「…俺に、命令しないでいただきたい。」 「ほう、仮面が剥がれてきたな。貴方は普段自分を俺と言うのか。」 仮面… そのような物があるのだとしたら、この程度の事はたいしたダメージではない。 仮面に仮面を何枚も積み重ねて生きてきたのだ。 その中の一枚を剥がされたくらいで騒ぎ立てたりはしない。 「だから、なんだと言うのですか?…ッ…!」 ブチブチと音を聞いたと同時に頭皮に痛みを感じた。 「…頭が低いフリをして、実は常に上から目線なんだよ、貴方は!」 俺は言葉を間違えたのかもしれない。 命令をするな… それが上から目線の言葉である事は確かだ。 まるであの人が口にする台詞のようでゾッとした。 血は争えないと言う事だろうか… 普段ならばこのような間違いを冒したりなどはしない。 自分で思っている以上に動揺しているのだという事に気付いてしまった。 髪を掴んでいた手が離され、今度は音羽社長が俺に跨った。 そして、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべた。 「…いい加減にしてくださ…ッ…」 俺の言葉を遮るように指が食い込む程強く両頬を掴まれた。 「今の状況を理解してないみたいだな、貴方は。そんなに犯されたいのか?」 その言葉に思わず目を見開いた。 自分が犯されるかもしれないという恐怖心からではない。 身に覚えがある行為だったからだ。 お酒に酔わせ、欲しいからと強引に抱いた… 音羽社長が今俺にしようとしている事は、過去に俺が蹴人にした事と同じ事だ。 これは… 蹴人を傷付けた天罰だろうか… この天罰を受け入れるのならば、神は俺に蹴人を与えてくれるのだろうか… もしも神が居るのならば… そして、それが叶うのならば… 俺はその天罰を受け入れようとさえ思う。 頬に感じる痛みが増した。 口内が切れてしまいそうな強さだ。 「ッ…!」 「貴方の顔は何をしても綺麗だ。啼かせても、潰しても綺麗なんだろうな…」 やはり歪んでいる… 恐怖すら覚える… そして音羽社長の顔が近づき、俺の顔を舐め回した。 気持ちが悪い… 頬を掴まれ、固定されているせいで避ける事も出来ない。 掴んでいた手が離れた瞬間、唇が触れ合い、食べられているような錯覚を覚えるキスをされた。 「ン…ッ…」 酷い嫌悪感と息苦しさに必死で避けようとするが、逃れる事は出来なかった。

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