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第13話

不安な気持ちが隠せない… 俺は八神総一郎だ。 八神の家に生まれた人間は、このような事で感情を揺さぶられたりはしない。 余裕の一つや二つ持っておきたい。 でも、蹴人の前に立つと俺は俺で居られなくなる。 「…お前、綺麗なのな…そういう顔、嫌いじゃない…」 ウエストコートのボタンを蹴人が外すと、俺はそれを脱ぎ床に落とした。 皺になってしまうだろうけれど、畳む余裕などはない。 どんなに装おっても、蹴人の前では意味を持たない。 全て、剥ぎ取られてしまうのだから… いつもとは違った蹴人に、呼吸が乱れる。 蹴人はタイピンを投げ捨て、苛立ちたがら不器用にネクタイを解く。 このままひっくり返して組み敷いて優位に立つ事は簡単だけれど、蹴人があまりにも必死で、どうしようもなく可愛らしくて、その姿をただ静かに見上げていた。 ワイシャツのボタンを外し、露になった部分に唇が這う。 首筋舐め上げ、鎖骨に痕を付けた。 これは… 俺が蹴人のものとなった証… そのように捉えていいのだろうか… 「…ッんン…君は、…荒々しいのだね…」 気持ちがよい… 蹴人の触れた部分全てが… この人は、このように荒々しく人を抱く事を知った。 以前、新見君は蹴人の手解きは優しいなどと言っていたけれど、優しいだなんてとんでもない。 不器用で、荒々しくあり、優しくしようなどという余裕の一つもない。 このままでは俺が犯され兼ねないと、宥めるように蹴人の背中を撫でた。 「…なぁ、お前…どこが感じるんだ?…」 蹴人の唇は相変わらず俺の胸元を這い、荒くなった呼吸とは裏腹に、その動きは優しく感じる。 「…ッ…どう…だろうね…」 「…知ってるんだろ?…」 音羽社長に触れられた時は感じたのは嫌悪感… それなのにも関わらず、最愛の人に触れられた身体は快感に震えている。 快感の逃がし方が分からず苦しい… 俺は、快感を逃すように、綺麗な色をした猫っ毛の頭に手を回し引き寄せ、耳元で囁いた。 「…全て…蹴人が触れた場所は…全て、気持ちがよいよ…」 「…ッ…」 それは本心だ。 自分でも信じられない程の快感が蹴人が触れた場所から湧き出してくる。 そして、また蹴人の唇が押し当てられ、強引に唇を割ると舌が絡め取られた。 蹴人に回した手に力がこもった。 キスをしながら乳首を弄られると、徐々に息が上がっていった。 唇が離れると蹴人は俺達を繋げている銀糸を舐め取った。 それが、とても恥ずかしい行為だという事を初めて知った。 「…ッ…お前、ヤバすぎ…」 「…は、ぁ…蹴人程では…ないよ…」 俺の乳首を弄っていた手は、いつの間にかベルトを落とし、ズボンのボタンを外すとチャックを下ろした。 蹴人の唇が俺の乳首を含み吸い上げた。 そして蹴人の手がモゾモゾと下着に潜り込み、俺のモノを擦った。 「…お前、もう勃ってる…」 「…ふ…ッ…君に…触れられているから…だよ…」 「…お前…俺の事好きすぎるだろ…」 「いつも…言ってるでしょう…ッんン…君が…好きだと…何度も…ッ…」 俺の声は聞いた事のない程甘く震えていた。

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