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第12話

エレベーターを待つ蹴人の隣に並んだ。 蹴人は黙ったままだ。 なにを考えているのかが分からない。 会えない時間だけではなく、会っている時間ですらも不安を感じる。 俺は、一体どうしたらよいのだろうか… そのような事を考えているとエレベーターの扉が開いた。 そして、俺はこの不安を押し付けるようにエレベーターに乗り込んだ蹴人を壁際に追い込んだ。 「痛ッ…おい、なん…ッ…ん、ン…」 そして、抗議の声を上げるその唇を塞いだ。 深く深く… 全てを奪うように… 例え苦しくとも、苦しがられても… 逃す気はない。 「…んッ…」 「…ふ…はぁ…ッ…んン…」 そのような強引なキスにも関わらず、蹴人は受け入れてくれている。 求められている… そのように感じる俺は、間違っているのだろうか… エレベーターが到着の音を鳴らし、扉が開いた。 こんなものでは足らない。 まだ離れたくはない。 必死に呼吸をしようとする蹴人、とても近くに感じられる息遣いが愛おしい… このまま死んでしまえばこの不安は消えるのだろうか… なんて幼稚な… たった一人にここまで心を乱されるなんて… 俺達を繋ぐ銀糸さえも愛おしく、舌先で舐め取った。 「………蹴人、好きだよ…」 「…そういうの、…いちいち言うな…」 一生閉じ込めてしまいたい… 一生閉じ込められてしまいたい… 蹴人を見つめたが、その視線はすぐにそらされてしまった。 蹴人の手を握り、エレベーターを降りた。 部屋の鍵を開けたと同時に背中に痛みが走った。 「…ッ…蹴人?…」 いきなりの事に驚いたが、壁と蹴人に挟まれているという状況にあると気付く事に大した時間はかからなかった。 顔が近付き、蹴人からキスを受けた。 小鳥が啄むようなキスに、擽ったい気分にさせられる。 リップ音を響かせながら、蹴人の指先がジャケットのボタンを外していく。 荒々しくて、男性らしい… 本来の蹴人は、こういった表情で行為に及ぶのだろう。 けれど、指先は震えていた。 その指先が俺の衣服を脱がせていった。 俺が不在の間に、蹴人に何があったというのだろうか… ボタンを外す簡単な作業にも苦労する程震えていた。 蹴人は脱がし終えたジャケットを乱暴に床に放った頃には、指先は震えていなかった。 「…お前、着込みすぎだ…全部…邪魔……」 駄目だ… そのような事は俺の不安を煽るだけだ。 耳元で囁かれた言葉と、耳朶に走った甘い痛み… その痛みは俺を震わせ、不安にさせた。 「…ッん…蹴人、あまりいつもと違う事をしないで…とても、不安になってしまうよ…」 目の前に居る人物は蹴人に違いないけれど、俺の知らない蹴人だった。

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