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第37話
暫くの間の後、蹴人が身体を起こして口を開いた。
「…お前、結婚するのか?」
唐突の言葉に驚いた。
何故そのような事を思ったのだろうか。
由莉亜は確かに婚約者ではあったけれど、結婚するなどとは蹴人には一言も言ってはいない。
「結婚?…蹴人は俺に結婚をしてほしいのかい?」
「違っ…折戸さんが明日お前が結婚するか決まるって言ってた…」
「蹴人、もしかすると君は俺の結婚を止めに…」
俺の台詞は伸ばされた蹴人の手により掻き消された。
「おい八神、よく聞け…もう二度と言わない…」
「…」
そしてゆっくりとその手を離した。
「俺は…お前の事が嫌いじゃない。多分、俺は…お前のモンで、お前は俺のモンなんだと思う…。だから、お前は黙って今まで通りバカみたいに俺だけを見ていればいい。…分かったか?」
本当に…
困ってしまった。
「…それは、告白と捉えていいのかい?」
「さあな…」
「では告白として有り難く受け取らせてもらおうかな。…それになかなかの独占欲だね。嬉しいよ。」
このような可愛らしい告白…
今までに幾度となくされてきたどの告白よりも愛おしく、可愛らしい…
そして、今まで貰ったどの言葉よりも嬉しかった。
「…でも、結婚…」
「俺が、君との関係を無かった事にして結婚をするとでも思っているのかい?」
「でも、お前には許嫁が居るだろ…」
まだそのような事を言っているのかと呆れて溜息が漏れた。
「俺が結婚をするのだとすれば、相手は君以外には考えられないよ…」
なんて現実味のない発言だ。
「…ばっ、頭の悪い事を言うな。」
「言わせておいて、酷いなぁ。…蹴人、結婚の話だけれど、俺も由莉亜も全くそのような気はなくてね、由莉亜のお父様が勝手に言っているだけの事なのだよ。」
「勝手にって…」
「まだ、由莉亜のお父様と父が繋がっていた時代に、父が適当な返事をしたのだろうと思う。昔は、由莉亜の家も大きかったのだけれど、今は…。そういった理由から由莉亜のお父様は俺と由莉亜の結婚を急いでいるらしくてね。しかし、力を持たない君島の家は、もう父の眼中にはないのだと思う。俺と由莉亜が結婚をしたところで八神の家にも君島の家にも何の利益もないという事をね、由莉亜のお父様に理解していただく為に会う事になっていたのだよ。」
俺は正直に蹴人に話をした。
そもそもは俺が悪かったのだ。
俺が隠そうとした事により蹴人を不安にさせてしまった。
「…お前も君島さんも、その気がないって事か?」
「もちろんだよ。由莉亜の事は好きだけれど、蹴人への気持ちとは違うのだよ。幼い頃からの仲という事もあって、もう家族に近い存在なのかもしれないね。多分、由莉亜も同じ気持ちだよ。」
「お前はそうでも、君島さんは違うかもしれないだろ。こないだ会った時、はっきり許嫁って言ってたしな。そう思ってるなら、わざわざ許嫁とか言わないだろ?」
「昨日、由莉亜と会った時にきちんと叱っておいたよ。由莉亜は少し意地の悪いところがあってね、君は由莉亜にからかわれたのだよ。」
「…は?」
「由莉亜が言っていたよ。君の反応があまりにも可愛らしくて意地悪をしたくなってしまったと…。そのせいで俺と蹴人の関係が悪くなってしまった事を話したら、珍しくとても反省していたよ。」
蹴人の発言一つ一つが嫉妬したのだと聞こえる。
俺の勘違いだろうか…
例え勘違いであっても構わない。
勘違いをさせるような台詞であった事に間違いはないのだから…
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