22 / 109
第22話 な
指定された日の放課後、呼び出された場所に辿り着き、目の前に広がったのは強姦の現場だった。第二校舎の端にある多目的室は日の当たらない場所だ。誰も来ることがなく、物置と化している。神津からそこにこいと言われた。
高宮は音を立てないようにゆっくり、ゆっくりと慎重に後退る。ここにいては行けない、逃げろ、帰れと頭の中で自分の声が響く。
「何、お前?新しく仲間にはいったの?」
背後から声をかけられた。背筋が凍った。恐る恐る振り返ってみれば、クラスでも騒がしいグループにいる人物だ。モデル体型で、彫りの深い顔立ちで、それだけでも人目を惹いた。話した事はない。間近で見ることも。
「や、柳瀬川・・・君・・・・?」
高宮にとって騒がしいグループの中心人物という印象が強い。そんな柳瀬川が爽やかな笑顔を向けて高宮の肩に触れた。親しみの籠もった手。
「そっか。うん、神津も寂しがり屋だからな・・・・うん。転校生にはちょっと刺激強いかもしれないけど」
「え?」
「そういえば、肉まん買ってきたんだけど、3人分しかねぇんだよ~」
白い紙袋にはコンビニ・・・この高校から最寄のコンビニの名前が記してあった。
「え?肉まん?」
柳瀬川は一人で納得し、ほぼ一人で会話をし、高宮は困った表情を浮かべる。
「あ、食いたい?俺のやるよ」
高宮の困った表情に、柳瀬川は笑って、白いふやけてはじめている袋を差し出す。高宮は首を振った。この部屋で何が起きているのか知っているようなのに、この態度はまるで場違いな気がした。
「おい。柳瀬川、誰と話してるんだ」
落ち着いた冷たい声で神津が多目的室のドアの向こうから聞こえた。
「高宮だけど?」
柳瀬川にがらりとドアを開けられた。隙間から情事を覗いているままの格好の高宮と、紙袋を持って爽やかな笑みを浮かべる柳瀬川の姿が神津から露になる。
「いや…見ないで…!お願い…」
どこかで見た、黒髪の美しい男子生徒と、神津、そしてその取り巻き数名。
「あ…あの…あの…」
言い訳を探している間にも興味からか視線が美しい男子生徒と神津に行ってしまう。美しい男子生徒を神津が穿っている。獣のような体勢だ。
「覗き魔か。いい趣味だな」
柳瀬川が後頭部の毛先を摘まんで、怪訝な表情をして、高宮を一瞥する。
「え、高宮、新しい仲間じゃねぇの?」
「よく逃げずに来たな。ま、カレシとしての義務なら当然か」
「え…?」
神津が愉快そうに笑って、高宮の爪先から脳天まで舐めまわすように見る。柳瀬川が高宮を凝視して持っていた紙袋を落としそうになる。
「桐生もヤリ飽きたんだよね。正直つまんねーっていうかさ・・・」
柳瀬川と高宮を見てから神津がそう呟いた。
神津がスラックスの前を開けると、美しい男子生徒・桐生の目の前に立つ。
「口を留守にすんな。くわえてろ」
神津は、美しい黒髪を揺らし綺麗な顔を歪ませる桐生の前髪を掴み腰を振る。それが高宮には男同士の行為に見えず、かあっと顔を赤らめ、俯く。
「高宮…ごめん。ごめんな」
ギィ、ギィと油の差されていないブリキのおもちゃのような音が聞こえそうな動作で、硬い動きをして柳瀬川が高宮の方に頭を向けた。変なことに巻き込んじまったっぽい、と引きつった笑みを浮かべる柳瀬川に、高宮は一度は顔を上げたが、また俯いた。
「勃っちゃったか?」
呆然としている高宮の前をスラックス越しに触る。熱く、硬い。優しく、ゆっくりと高宮を座らせる。そして肩を掴んで押し倒す。
神津が柳瀬川と高宮を見た。
首筋から胸へ、腹へと柳瀬川の指が伝っていく。
「柳瀬川…!いやだっ」
高宮は柳瀬川の腕を掴んだ。
神津が桐生の口に放つと、スラックスにしまって柳瀬川と高宮のもとに来た。
「来い」
ベルトが外され、腰でスラックスが止まっている状態で神津は高宮を立たせる。
「神津・・・」
「柳瀬川、ついてくるな。お前には関係ない」
柳瀬川は神津を見上げる。酷く冷たい眼差しが突き刺さった。動けなくなった。いつの間にか絶対的な距離を確立してしまった親友に怯えている。そんな柳瀬川の目に満足したように笑うと高宮を引っ張るように多目的室から出ていった。
「・・・・・高宮・・・・」
高宮の背中を柳瀬川はじっと見つめる。
高宮。柳瀬川の胸の鼓動が早くなった。それは不安だ。巻き込んでしまったかもしれないという自責だ。自分のやっていること、神津のやっていること、桐生がやらされていること。分かっている。
「あっ・・・・・。ぁあああうっ」
桐生の喘ぎ声にふと柳瀬川の意識が現実に戻ってきた。
「柳瀬川・・・・神津さん怒らせてどうするんだよ」
神津の取り巻きの男が桐生を貫くと、腰を動かし始める。卑猥な水音と、身体と身体がぶつかる音がする。最初は嫌悪感すら抱いていた、桐生の声を抑えようとして漏れる声も、快感に耐える男たちの吐息も、今はもうただの雑音でしかない。見慣れた生活音でしか。
「機嫌とるの面倒なんだからな」
神津の取り巻きの男の口調に呆れが含まれている。機嫌の捌け口が誰にいくかは知っている。神津は柳瀬川に八つ当たりはしない。だから神津の機嫌を損ねるという実感が足りないのだと柳瀬川は思っい、小さくごめんと呟くだけだった。
ともだちにシェアしよう!