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第2話 引っ越し
「──母さん、この段ボールはこっちの部屋でイイんだっけ?」
食器が入った段ボールを運んでいたら、ソレを軽々と奪われた。
ついでとばかりに僕の唇にその唇が触れる。
軽いキスから始まるソレは僕はあまり得意ではないけど、コレが練習ならと思えばソレもイイかと僕はその首に腕を廻した。
「こら、月坡!いちゃつくのはイイけど、あそこらを全部片付けてからにしてちょうだい!」
僕にはそういって母さんは大きく溜め息をつくのだが、もう片方にはこういう。
「色(いろ)くん悪いけど、その持っている段ボールをあっちの部屋に運んでくれるかしら?」
色くんと呼ばれたもう一方はこくこくと頷いて、もう一度僕の唇に唇を合わせるとさっさと奥の部屋にその段ボールを持っていく。
僕はソレを見送ってから母さんと向き合った。
「もう母さん、なんで邪魔すんの!」
イイところだったのにと言えば、母さんは呆れた顔でだからでしょうという。確かに、ソレ以上のことをするとなれば暫くは完全にロスするだろう。
「色くんと早くいちゃいちゃしたいんなら、することさっさと終わらせてからにしなさい」
母さんは僕の頭を軽く叩いて、色が向かった奥の部屋に消えていった。
色こと、只野色羽(ただの いろは)は母さんが再婚する相手だった小野陽香(おの はるか)さんの忘れ形見である。陽香さんの突然の死で天涯孤独になってしまった色を母さんが引き取って、僕と色は兄弟になった。
兄弟なのに恋人のように振るまうのは、色が心の病気を抱えているからだ。色は陽香さんの死が原因で言葉が喋れなくなってしまい、そのショックで心まで閉ざしてしまったのだ。
当時はこの僕にさえ心を閉ざしていて、食事も睡眠も取らなくなるまで病んでしまっていた。だが、僕の懸命な看病のおかげか、徐々に心を開くようになっていま現在に至る。
色は僕と同い歳で三日だけ誕生日が早い。兄さんという感じもしないから、僕は兄弟になった日から色羽のことを色と呼んでいる。
そんな色と初めてキスをしたのは、いまから三年前だ。ちょうど陽香さんの三周忌と一年遅れの高校入学が決まったときだった。桜が散る景色の中、僕とふたりだけの細やかなお祝いをしたときだった。
触れるだけの甘いキスで、僕の二回目のキス。初めては勿論、星玻だ。星玻との別れの日、どうしてもといって星玻にキスをして貰った。困った顔と苦い味、ソレが僕のファーストキスの味だった。
ソレから、色と恋人のように身体を合わせるようになったのが、色と初めてキスしてからひとつきも経っていなかった気がする。その間にも色と沢山キスをした。沢山キスをしたからそうなったかもしれないが、初めてが星玻ではないという抵抗がまったくなかったことははっきりと覚えている。
そう、色に求められるが儘キスをして、流れるように色を受け入れた。初めてだから痛いんだと覚悟していたけど、ソレもなく、物凄く気持ちよかったことを覚えている。痺れるような甘い感覚で、心がふわふわとしていた。ソレはもう、星玻に恋い焦がれていることすら忘れてしまうくらいに。
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