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第5話

 苦しい。  苦しい。  息ができない。 「……ん…ぅ…」  苦しくて首を横に振った。  ちゅ、とリップ音を立てて唇が離れる。  やっと吸うことのできた空気を、必死に呑み込む。  目を開けたら視界がぼやけていた。 「そんな必死に呼吸しなくても……いやでした?」 「……息ができなかったんだよ」 「キスの途中で鼻で吸えばいいじゃないですか」 「そんな余裕なかったんだよ!」 「よかったんだ?」  ちゅ。  もう一度キス。  今度は音だけ立ててすぐに離れる。 「いいとか悪いとか、そんな問題じゃないだろ」 「だって志方センセ、以前は教え子に手を出すのはモラルに反するからダメって、云ったじゃないですか」  だから同僚になってから仕切り直しに来ました。  と、悪びれもせずに望月くんが笑う。  志方センセ、ガードが固くてなかなか口説かせてくれないんだもん、と。  そう。  彼はずっと自分をからかっていた。  まだ中学生で、自分が塾生だったころから、ずいぶんと年上の、しかも男の僕のことを好きだと。  付き合って欲しいと。  自分のものになってほしいと、言い続けているのだから。  そんな気の迷いみたいなことをどう信じろっていうんだ。  からかっている以外になんだっていうんだ。  そう思うしか、ないじゃないか。 「冗談もほどほどにした方がいいよ」 「冗談で男が口説けるほど、遊びなれてないですよ」  真面目な表情をして、望月くんが僕の前に膝をつく。  椅子に座ったままの僕の胴体に両手を回す。 「冗談なんかじゃないんだよ……いい加減、信じてよ」

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