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第6話

 ああ。  そんなこと。  信じてるよ。  知ってるよ。  冗談で人の心をもてあそべるような子じゃないってことくらい、もう、わかっているよ。  ずっと、感じていたよ。    君が本気だってことくらい。  だから、怖いんじゃないか。  ほろり、と、滴が落ちた。  我慢しきれなかった一粒は、続く滴の呼び水になる。 「志方センセ?」 「僕は君ほど若くもなければ、思い切りもよくないんだよ」 「……でも、優しい。俺はあなたほど優しい人を、知らないよ」 「君が、そう思っているだけだ。買い被りだよ」 「いいよ、それでも。他の人に優しくないってあなたが言うなら、それはセンセが俺だけに優しいってことだから」  ぐいぐいと、回した手に力を入れて、望月くんが抱き着く形になる。  形のいい頭を見下ろしながら、目から落ちる滴が止まらない。  つむじに落ちる水滴を気にも留めずに、望月くんは僕から離れようとしない。 「ねえ、大好き。愛してるよ、志方センセ。だから、俺のものになって」  ずっとずっと長い間。  そう、君が中学生のころからずっと。  ほぼ十年。  こんなに真摯な思いを向けられて、断れると思ってるのか。  自分の魅力をわかってないだろう、君。  そう言ってやりたいのに、あふれるのは言葉ではなく涙だけ。  十五歳以上はある歳の差だとか。  同性同士だとか。  教育現場の職場恋愛になるのにとか。  ためらう理由はたくさんあるのに。  なのに。  僕はもう、きみを拒めない。 <END>

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