3 / 33

第3話

 1  年に一度だけ、貧民層の若者に城の広場が解放される。  十六歳で成人を迎えるのに身分など関係ない、みな平等に祝福されるべきだ。そう考え城の広場で成人の儀を行おうと決めたのは王子で、枢機卿すうききょうより言葉を給わり洗礼を受けることも可能だ。  ジュリオは今日で成人を迎える。昨日より楽しみにしていた儀だ、待ち遠しさからすでに心は広場に着いていた。  城に招かれるというのにぼろを着て行くわけにはいかない。息子の晴れの日だ、少しずつ家計を切り詰め貯めた金で買った生地やレースで母親が仕立てた上等な服は、色白なジュリオにとてもよく似合っている。  城に向かう道すがらジュリオは身なりを見下ろすと、「母さんありがとう」と心で感謝をする。  ジュリオには父親がいない。幼い頃に父親を亡くし、以後は母親がひとりで息子を育てた。幸いなことに近隣の住人はみな優しい者ばかりで、働きに出るあいだジュリオの面倒を見てくれたのだ。  多くの者から愛情を受けたジュリオは、今日まですくすくと育ち気立てのよい若者となった。  流れる柳眉とながいまつ毛に覆われた夢見るサファイアの瞳、少女のように繊細な鼻梁と熟れた桃を思わせるぽってりとした口唇。薔薇の頬は艶やかに雪肌を染め上げ、うりざね型のおもてを彩っている。  さらりと垂れるながい髪は絹のように美しいトゥーヘアードで、青いリボンでひとまとめに結ばれている。  少しばかり伸び悩む身長と華奢な体躯も相まって、ジュストコールを羽織っていなければジュリオはしばしば女性と間違われてしまう。けれど今日は立派な紳士だと胸をはり、軽やかな足取りで城までの道をジュリオは気高く進む。

ともだちにシェアしよう!