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第5話
息苦しいこの空間は、あの時の海に。
漂う白い煙は、あの時の白い線に。
目の前で静かに泣く声は、あの時の波音に。
「息子で、間違いありません」
そう警察官に伝えた女性は、アイツに。
とてもよく似ていた。
熱帯夜に鳴った携帯電話。
昔よく聞いた声は少し震えていた。
たまに後ろに乗せてもらったバイクでの交通事故。
即死の割には綺麗な顔だった。
却ってその綺麗な顔が、アイツが死体になった事を証明するようだった。
やっぱり海は嫌いだ。
特に夏の夜の海は大嫌いだ。
ただ、大嫌いなのに本当に嫌いなりきれないのは、アイツが笑顔で言ったからだ。
『また、海に来よう』
なぁ、オマエが言った"また"って、いつなんだ。
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