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epilogue
漆黒の中で貴方を見つけたとき、幽霊かと思った。
でも、貴方のような幽霊になら取り憑かれてもいいと思った。
事実、取り憑かれていた。
貴方と初めて会った日から、毎日のように貴方が夢に現れ、夜の海へ誘う。
そして、現実の夜も貴方に会いたくて、夜の海へ出かけた。
海の家のバイトも明日で終わる。
今日の夜が、貴方と会える最後の日。
せめて名前だけでも知りたかった。
『カツミ』
貴方の名前を聞いて気づいた。
俺が知りたかったのは名前だけじゃない。
貴方の全てを知りたかったんだ。
『…ハヤっ、…トっ、く…ん』
甘く苦しそうに俺の名前を呼ぶ貴方に、もうどうにかなりそうだった。
愁いを帯びた貴方は、いつも心ここに在らずだった。
いつも眺めていた海に、何を見ていたの。誰を見ていたの。
『また、来年も、…ここに来る』
一度断った貴方に、俺は何度も懇願した。貴方から、まだ同じ熱を感じたから。
折れた貴方は、"来年"と言った。
あぁ、貴方は何て傲慢で魅惑的なんだろう。
忘れさられる事を願いながら、会いたいと言っている。
篭る熱に蝕まれたまま、響く音に侵されたまま。
俺は今も貴方に取り憑かれているのに。
これからも貴方に取り憑かれたままなのに。
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