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壁に耳あり

義父である嶋 綾人(しま あやと)は、今年38歳の大学助教授だ。 艶のある黒い髪は後ろに流し、眼鏡の奥の涼し気な目で見つめられると、どきりと胸が高鳴る。 けれど、今、俺は壁に耳を当てて、隣の部屋の父の声をじっくりと聞いている。 「……んぅ!あっ!あぁっ!……もう、だめ……っイッちゃう……!!」 掠れたような声で、許しを乞うように喘ぐ義父の姿を想像するだけで、俺は興奮した。 俺はズボンを緩め、自らのモノに手を伸ばし、擦り始めた。 犯されているのであろう義父の声に合わせて、慰めていく。 「……っあぁあ……!!」 義父の登りつめた叫びが、俺の官能を揺さぶって壁を白濁まみれにしてしまった。 「綾人さん……」 義理とはいえ父である彼に、言うに言えぬ感情を持ったのはいつ頃からか。 俺は、義父を愛していた。 『清人(きよひと)くん、初めまして。お母さんとお付き合いさせてもらっています、嶋 綾人です』 綾人さんと出会ったのは、中学三年生の頃。 母が教授として働いていた大学で助教授をしていた彼は、母と恋に落ち、結婚した。 母は、自由奔放な人で一度は結婚したものの別れ、研究と称しては様々な国に飛んでいた。 放任主義にはすっかり慣れて、ほとんど一人で暮らしていたが、再婚相手の綾人さんを紹介された時、俺も恋に落ちてしまった。 細身の体に、白い肌。 薄い唇から覗く、赤い舌。 眼鏡から覗く瞳は涼しげだが、笑うとどこか人懐っこい印象がある。 そして、話せば話すほど、優しい彼の性格が現れて、もっと好きになった。 けれど、好きになってはいけない。 母の再婚相手で、俺の父になる人なのだから。 そう思っていた。 良い息子になろうと努め、三年目の夏。 7月から9月まで、母がスペインに行くことになり、夏休みの間だけ、綾人さんの知り合いの人が管理している田舎の家に住むことになった。 というのも、綾人さんの専門は民俗学で、その村の土着信仰について調べるのが目的なのだ。 「清人くん、この本運んでくれる?」 「こっちでいいの?」 「あぁ。その本棚に入れて」 1ヶ月半ほどの滞在で、家財道具はあまり持ってこなかったが、綾人さんの研究資料が沢山あった。 家は木造の平屋建てで、大きな日本家屋だ。 書斎もなかなかの大きさで、本の収納には困らなさそうだ。 掃除をこまめにしていてくれていたらしい。 家具も使えそうだった。 「とりあえず、荷物はこれくらいで大丈夫だと思う。清人くんは、部屋でゆっくりしてても大丈夫だよ」 長旅で少し疲れていたため、綾人さんの言う通りにした。 バスを乗り継いだところに大学があり、ここはその大学生達の下宿だったらしい。 主人が亡くなってからは、空き家だったが、手入れが行き届いているし、それにほんの少し前まで誰かが住んでいたような、そんな生々しさがある。 例えば、洗面所。 誰もいないはずなのに、手拭いが掛けてあったり、ボロボロの歯ブラシが横に転がっていたり、鏡の前に剃刀が立てかけてあったり……。 少し、気味が悪い。

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