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障子に目あり
平屋建てなので、一階しかないが、かつては十人以上の下宿生達が暮らしていただけあって、部屋が多かった。
それぞれの部屋には花の名前が書かれている。
俺は『百合の間』を使うことにした。
南向きの暖かい部屋で、縁側から中庭に降りられる部屋だ。
綾人さんは、隣の『菖蒲の間』。
畳の上に寝転がる。
これから、綾人さんと二人きりで暮らすのか……。
母がいる手前、綾人さんを父として接してきたが、やっぱり二人きりになると何となく落ち着かない。
汗を拭う姿や、眼鏡を外したところなど、どことなく色気を感じてしまって、押し倒してしまいそうだった。
……何だか眠たくなってきた。
俺は蝉の声を聞きながら、寝てしまった。
「清人くーん。ご飯だよー」
扉の前で綾人さんが呼んでいる。
「今、行くー……」
まだ眠気が取れなくて、ぼんやり障子の方を見るとオレンジ色に染まっていた。
そんなに寝てたのか……。
ふと障子の下の方を見ると、小さな穴が空いている。
こんな穴空いてたっけ?
俺は何となく穴を覗いてみる。中庭が見える。
食事のため離れようとすると、緑の目と目が合った。
「……!」
緑の目はキョロキョロとあたりを見渡すと、笑ったかのように目を細め、離れていった。
何だ、今の……。
障子を開け放つも、人はいなかった。
次の日。
綾人さんは仕事をするために、フィールドワークに出かけた。
俺は昨日のこともあり、家にいたくなくて、ついて行くことにした。
「清人くん。なんだか顔色悪いけど、大丈夫?」
「大丈夫。あんまり眠れなくて……」
あの緑の目が忘れられなくて、眠れなかった。
村の外れを歩いていくと、小高い丘の上に石碑が立っていた。
「これだな……」と綾人さんは「蛇神」と書かれた石碑を眺め始める。
メモを取りながら、色んな所を観察し始めた。
俺は特にすることが無かったため、ぶらぶらと辺りを歩いた。
長閑な雰囲気が都会と違って、癒される。
時間がゆったりしている。
「お前、よそ者か?」
後ろを見ると、甚平を着た10歳くらいの少年が立っていた。
銀色の髪に、赤い目。
外国の子だろうか?
「お前、よそ者か?」
同じ事を繰り返し聞いてきたので、「昨日引っ越してきたんだ」と答えた。
「何をしに来た」
「えっと……父さんとここの信仰のことを調べに来たんだよ」
「シンコウ……」
子どもには難しかっただろうか……。
「君はここの村の子?」
「違う」
「違うの?じゃあどこに住んでるの?」
「この山に住んでる」
「何してたの?」
「捜し物してる」
少年は淡々と俺の質問に答えていく。
「清人くん、そろそろ戻ろうか」と石碑の所から声をかけられる。
「ごめん、そろそろ帰るね」と少年に声を掛けようと振り返ると、少年はどこか行ってしまっていた。
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