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鬼が住むか
蒸し暑くて、目が覚めた。
その日の夜、隣から何か声が聞こえた。
綾人さんが誰かと話している。
お客さんでも来たのだろうか……。
「……して、何で……君は、もう……はずじゃないか……」
ちらりと時計をみると、夜中の一時。
こんな時間にお客さんというのはおかしいし、電話は玄関近くの黒電話しかないし……綾人さんは一体誰と話をしてるんだろう。
小さな声で話しているため、所々しか聞こえない。
「エリ……君のこと、思って……ずっと……」
エリ?もしかして、女の人?
綾人さんがまさか、女の人を連れ込むとか……。
「待って……、行か……で」
すっと障子の開く音がする。
ミシッミシッと響く足音が聞こえ、障子の方を見ると人影がゆっくり廊下を歩いていた。
俺は、かいていた汗が一斉に引いていくのが分かる。
夏布団を顎下まで被り、人影が消えるのを待った。
俺は四つん這いになりながら、ゆっくり障子を開けて、廊下を見ると、廊下の突き当たりを右に曲がる人影が見えた。
綾人さんの部屋は静かだ。
俺は意を決して、追いかけることにした。
突き当たりを右に曲がると、玄関の前に背の高い男が立っている。
「君は彼の子?」
艶のある男の声。
どうやら、自分のことらしい。
「見えてるんでしょ?僕のこと」
「……あんた、誰?」
「僕は綾人の恋人で、ここの住人」
「恋人って……父さんは、母さんの旦那だ。恋人なんているはずない!!」
男はシーっと大声をあげた俺を窘める。
「綾人はもう寝てるから静かにしてあげて?……そっか、君は綾人の息子さんなんだ。すごく大きな息子さんがいるんだね。びっくりだ」
くすくすと笑われる。
すっかりこの男のペースになってしまって、悔しい。
「俺は、義理の息子だ……」
「ふーん」と男が呟くと、いつの間にか俺の前に立っていた。
一瞬怯んだように身を竦めると、男は俺の顎を持ち上げる。
「道理で似てないわけだ」
中庭から月明かりが差し込む。
金色の髪に、緑の目。
肌は蝋のように白くて綺麗で、外国人のように彫りの深い顔。
「僕の名前は、北窓 エリン。ここの下宿生で、綾人の同級生であり恋人。君とは同居人になるね。よろしく」
エリンという男は緑の目を細めて笑った。
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