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灯篭流し
「この村では蛇神伝説というものがあって、信仰の中心だったんだ。昔、水脈を求めて移住してきた村人達が白蛇に誘われて水脈を見つけ、村を発展させたことが由来なんだよ。
お盆の日、村人達は亡くなった人の魂も蛇神に導いて貰えるように笹の葉の船を流し始めた。今では、観光目的もあって、こういう灯篭だけどね」
村の盆祭りにきた綾人は、息子の清人に説明しながら、灯篭の中の蝋燭に火をつけた。
優しい灯火が点々と川を流れている。
綾人もそっと灯篭を川に送り出した。
清人は誰の為の灯篭か分かっていたが、聞かなかった。
途中まで、順調に流れていた灯篭は川の出っ張った岩に引っかかって止まった。
綾人と離れたくないと言わんばかりに。
しかし、川の中をすっと泳ぐ白蛇が一匹、頭で灯篭を押し出した……ように清人には見えた。
気のせいだったような気がする。
その後川を見たが、蛇なんて一匹もいなかったから。
「エリンは、少し僕の所に寄り道をしただけなんだ。昔から彼はそういう気ままな所があったから」
眼鏡の奥の瞳は、穏やかだ。
「さよなら、エリン」
綾人はそう呟くと、清人に手を差し伸べる。
「帰ろう。清人」
「うん。綾人さん」
手を繋ぐ二人の関係は親子以上のものに変化しつつあった。
清人はぎゅっと綾人の手を握り、その瞳は「好きでたまらない」という気持ちで溢れている。
(これからも、この人と共に歩みたい。だって、俺は生きてる)
清人は綾人の横顔を見つめた。
……この時、清人の真っ黒な瞳の奥に緑の光が宿っていたのを、まだ誰も知らなかった。
終
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