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枯れ尾花

バチンっと電気が走ったような音がした。 いつの間に現れたのか、朽縄が丸い鏡のような物を持って現れた。 「君は、蛇神の使いか……」 エリンは朽縄を憎々しげに見る。 「蛇神様の力を返してもらう」 そう告げると、エリンから何か白い霧のようなものが剥ぎ取られ、鏡の中に吸い込まれていく。 エリンは力が抜けたように、その場に崩れ落ちた。 「お前は、蛇神様の力を勝手に使った。このまま使い続ければ、力に飲み込まれて悪霊になるところだった。 お前を霊界へ連れていく。ここにいても、お前に居場所はない。帰るべき場所に帰るのだ」 朽縄は冷たい顔で最後通牒を突きつけると、エリンは諦めたように項垂れる。 高貴な花が萎れて、枯れる寸前のような儚さが彼にあった。 朽縄に促され、立ち上がると、エリンは俺に近づいてきた。 綾人さんを抱えながら引き下がるとエリンは「もう何もしないよ」と言った。 「一つだけお願いがある」 エリンはそう言うと、俺の胸ぐらを掴んで、自分の唇を俺の唇に押し当てた。 「な、何するんだ……!?」 「僕の唇は、君に預ける。綾人に最期の口づけを君からしてやってくれ」 エリンは綾人さんの髪を撫でると、「さよなら」と告げ、朽縄とともに消えていった。 月だけが素知らぬ顔で、俺たち二人を照らしていた。 心無しか、綾人さんの顔色が良くなったような気がする。 月明かり、二人だけしかいない空間で、俺は綾人さんの唇にそっと自分の唇を落とした。

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