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幽霊の正体見たり、

その日の夜。 やはり隣から、情事の音が聞こえてきた。 昼間の朽縄の言葉を思い返す。 このまま、エリンと体を重ね続ければ、綾人さんは……。 俺は布団から抜け出し、縁側から障子を開けて、隣の部屋の様子を伺った。 「え……」 何だ、あれは。 布団の上で、絡み合っていたのは、半裸状態の綾人さんと大きな白い蛇。 綾人さんの細い体を締め付けるように、絡みついている。 二つに割れた舌先で、綾人さんの舌を絡めとっている。 「んぁ……エリン……もっと……」 「綾人……早く僕の所に堕ちておいで……」 着物の裾から、ちらりと蛇と繋がっている所が見えた。 うち太ももが白く汚れている。 チロチロと大蛇は綾人さんの顔を舐める。 綾人さんの顔は蕩けて、もっともっととねだっている。どうやら蛇だとは思っていないらしい。 じっとその様子を見ていると、緑の目と目が合ってしまった。 「お客さんが来たみたいだよ」 触れてないのに、ゆっくりと障子が開いた。 蕩けきった顔をしていた綾人さんの顔が青ざめる。 「清人くん……」 文机の小さな電燈だけが点いており、頼りない明かりが、綾人さんの裸体を浮かび上がらせている。 大蛇に付けられた跡が赤い花びらのように白い肌に散っており、大蛇に開放された体は、ぬらぬらとした粘液のようなものがついている。 「見ないで……」 自分の体を隠すも、その姿さえもいやらしい。 「綾人、清人は君のことが好きみたい。毎晩、隣で聞き耳をたてて、想像してたんだよ」 「やめろ……言うな……っ」 エリンの声を遮るように、俺は声を荒らげた。 「自分の父親を頭の中で犯すなんて、普通の息子はしないよ」 「黙れ!化け物……!!」 俺はそう叫ぶと綾人さんの手を引いて、無我夢中で走った。 途中で何度も転びそうになったけど、何とか家の外に出た。 大蛇だったはずのエリンはいつの間にか人の姿に戻って、家から出てきた。 「どこに逃げるの?」 俺は気を失った綾人さんを抱きしめる。 ゆっくり近づくエリンは、俺らの方に手を伸ばした。 これ以上、綾人さんを傷つけないで……! 必死に心の中で祈った。

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