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丑三つ時
引っ越してきて、二日目の夜。
綾人さんの部屋から、物音がするようになった。
初めはそんなに気にならない程度だったけど、日を追うごとにだんだん激しくなって、綾人さんが、誰と何をしているのかが分かった。
「エリン……っ、あぁ……激し……もっと、奥まで……!」
「綾人、もっとお尻を突き出して……そう、いい子だ」
俺は壁に耳を当てて、その情事の一切を聞き入った。
湿った皮膚がぶつかる音。
綾人さんの嬌声。
あの男が官能に耽る声。
その全てが俺を興奮させた。
いつしか、その物音を聞きながら、頭の中で綾人さんを犯し始めた。
あの細身の体に乗っかり、ひたすら腰を振る。
義理とはいえ、父親を犯すなんて、不道徳な息子だと思うけど、止められない。
「………っ、あぁぁ!!」
絶頂を迎えた声。
俺も自分の手の中で果てる。
きっと、エリンも綾人さんの中で……。
日に日に、綾人さんの顔色が悪くなった。
元々細かった体も、更に細くなったし、食欲もないらしく、あまり食べない。
「父さん、大丈夫?」
「……ん?大丈夫だよ。夏バテかなぁ」
顔色が悪いのに、何故か物憂げな表情には色気があって、直視できない時があった。
そして、相変わらずエリンは俺の前に現れ、日が出ている間は綾人さんには見えないらしい。
「清人、君はお父さんのこと好きなんだねぇ」
「ほっといてくれ」
「思いを伝えればいいじゃないか」
「……それが出来たら苦労しない」
「幽霊の僕が言うのも何だけど、死んでから後悔しても遅いよ?」
余計なことばっかり……嫌いだ。
幽霊に犯されているから、綾人さんは元気がないんだ。
「清人くん。ちょっと出かけてくるね」
綾人さんは少し覚束無い足取りで、フラフラと歩いていく。
俺は心配だったが、ついてこなくていいと言われたため、玄関の外でその背中を見送った。
「あのおじさん、つかれてる」
いつの間にか、山で出会った銀髪赤目の子がすぐ隣にいた。
「君、いつの間に……」
「あのおじさん、死んじゃう」
「え……」
「エリンに殺される」
どうして、エリンの名前をこの子は知ってるんだろう。
「それって、どういうこと?」
「エリンは、蛇神様の力を奪って、怨霊になったの。あのおじさんは、エリンに取り憑かれてる」
取り憑かれてる?
「どうやったら、父さんは助かる!?」
「エリンをこの家から出してくれたら、我が力を吸い取る」
燃えるような赤い目に、俺の不安そうな顔が映った。
「君は……一体……」
「我は蛇神様の使いで、朽縄 。ご主人様の力を取り返しに来た」
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