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草木も眠る
引越しして二日目の夜。何だか蒸し暑くて眠れない。
ふと、障子の方を見ると、月明かりに照らされた中庭の草花がさわさわと音を立てて、縁側に吊るした風鈴も微かに鳴っている。
ミシッ……
縁側から何やら音がする。
家鳴りかな。
ミシッミシッ……
こんなにも家鳴りとは鳴るものなのだろうか。
ミシッミシッミシッミシッ……
違う。足音だ。
そっと障子の方を見ると、悲鳴を上げそうになった。
人影が、そこに立っていた。
声を掛ける勇気もなく、ただひたすら影を見つめるしかない。
ボーーーーン……
夜中の12時を告げる時計の音。
「綾人。僕だよ」
艶のある、低く響くような声。
ずっと聞きたかった声。
「ここを開けて、綾人。逢いに来たんだ」
僕は布団から抜け出し、そっと障子を開けると、月明かりに照らされた金色の髪が目に飛び込んできた。
男は狭い障子の隙間をするりと抜けて、僕を抱きしめた。
「綾人……会いたかった……」
「どうして……何で?君は死んだはずじゃないか……!」
体を一旦離すと、翡翠の瞳が僕を見下ろす。
「もしかして、生きてたの?酷いじゃないか。僕は君を思って、何度も泣いたのに……!」
僕が見たエリンの遺体も実は偽物で、本当は今まで生きてたのか……。
目尻に滲んだ涙を長い指で拭われる。
「ごめん、綾人。僕は死んでる。幽霊なんだ」
「幽霊……?」
こんなにもちゃんと実体があるのに、幽霊だなんて信じられない。
……けど、ずっとずっと会いたかった。
「エリン、幽霊でも会いたかった……」
「僕も会いたかった……。けど、今夜はここまでだ。明日の夜、また来るから」
エリンは大きな手で、僕の目を覆った。
途端に眠気が襲ってくる。
「待って……エリン……行かない、で……」
僕はその場に崩れ落ち、眠ってしまった。
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