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第1話
都心から新幹線で約5時間、普通電車に乗り換え約2時間。さすがに疲れたが、駅を出た瞬間そんな事は忘れてしまう。
始終着けていたイヤホンを外すと、そこら中の木々から蝉の大合唱が聞こえる。気にもとめないような事だが、俺にとってはこれが1年の始まりの合図だ。
「ーーうるせー」
言葉とは裏腹に、ニヤけてしまっているのは自覚している。
日差しを遮るビル群もなければ、人の姿もない。何もないーーでも、俺が求めているものはここにしかないのだ。
澄んだ空気をめいいっぱい吸い込み、ゆっくりと吐くーー1年ぶりにまともに呼吸が出来た気がした。
都会の空気なんてあってないような物と一緒だ。寧ろ、毒でしかない。
排気ガスや多くなりすぎた人で汚染されている。中でも人が1番の悪害だ。口先ばかりで分かったような事ばかりの大人や嘘で塗り固められた外面だけいいクラスメイト。厄介なのが、雌猿の集団――学校の女子達。キーキーと耳障りな鳴き声を上げ、周りに群がっては縄張り争いを勝手に始める。が、無下にする事も出来ない。そんな事をすればどうなるか、なんて簡単に想像出来るだろう。
そんな奴らと同じ空気を共有しているのか、と思うと吐き気がする。
大袈裟な様だが、事実だから仕方ない。
両腕を大きく広げ、CMさながらに誇張した深呼吸をするポーズも、自然と出てしまうので仕方ない。
ーーこの匂い。
風に乗ってきた甘ったる香りに、思わず犬の様に鼻がヒクつく。
香りを辿り、振り返った先に予想外の人物を捉えた。
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