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第61話

泣きそうになるぐらい嬉しいーー。 まるであの時見ていた、ドラマの主人公にでもなったようでーーそう思うと、気恥ずかしくなってきて、なんて返していいか分からない。 「……伝わらなかった、か? 笑ってくれると思ったんだけど……」 ーー……いやいや、真面目な顔で言われて笑えるか……てか、似合うやつがやっても、嫌味なだけだろ! 何だか気が抜けて、ため息が出た。ストレートなのか、変化球なのか使い分けがあやふやで分かりづらいーー。こんなに不器用やつだったか? と呆れる反面、本当の伊月が垣間見えた気がし、少しだけときめいてしまったのも事実でーー今回は空気の読める俺が、フォローしよう。 「……白のスーツは?」 「……勘弁してくれ……これだけでも恥ずかしいんだよーー」 少しだけ頬を赤らめ、はにかみながら答えた伊月がやはり可愛く見え、受け取った花束ごと伊月の胸に飛び込んだ。 バランスを崩し、尻もちを着くように俺を受け止めた伊月の顔に、2人の圧で飛んだ無数の花びらが舞っていてーーまるで、伊月から花が飛んでいるよう錯覚する。 その光景が、全く違和感がなく似合っていて思わず吹き出してしまった。 「ーーイケメン、ムカつく!」 苦笑いした伊月が、俺の後頭部を引き寄せ笑いの止まらない口を塞いできた。 それがまた嬉しくて、首に回した自身の腕を固く握り、深く唇を重ねたーー。 身体の間に挟まる2つの花束の意味が気になるがーー深追いはしないでおく。 それより今は、伊月との幸せな時間に浸りたかったし、何より最優先したかった。 この唇も、絡まる舌も、力強く俺を引き寄せる腕も、俺に向けられているものでーー今なら、純粋に何も臆すことなく伝えられる気がした。 俺の考えが分かったのか? と思う程タイミング良く、伊月の力が抜けゆっくりと距離が開き、視線が絡んだーー。 穏やかで優しい笑顔に、抑え込んでいた気持ちが溢れ出してきて、俺は泣き笑いと言う器用な事をして見せた。 「ーーずっと、ずっと、伊月さんに会いたかった」

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