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第3話
10月も下旬、日中もヒンヤリとしてきた。初めて蓮からの血液摂取してから、数日経つがすこぶる調子が良い。
蓮は、毎日メールや電話で俺を心配してくれている。
収入も無いから、蓮から資産運用やらを教えて貰ったりして、何処かに勤めなくても済むように手配してくれている。有り難い。
「友達になって。」
流石に恥ずかしかったが、目立つ外見で不便な中、細々と世話してくれている。
時々、穏やかな視線を俺に向けてくれる。
それが、居心地が良くてこちらも自然と笑みがこぼれる。
蓮は、デカイ。(身長がね)185cmある。しかしながら、ピアノやヴァイオリンが趣味で、お坊ちゃまだったらしい。手先が器用なのか、身体がデカイのに、愛用品は、小さな物が多い。本人曰く小さな物は総じて可愛いのだそうだ。でも、キャラクターグッズはちょっと恥ずかしい。
そして今は、山盛りの資料と戦っている。自分は何者で何が出来るのか。自分の存在の意味を探していた。
一緒に資料を読んでいた蓮が、1つの資料に目を止めた。俺も読んだが、どうやら意識を集中させれば、外見を変える事が出来るらしい。
集中かぁ。どうしたら良いんだろう?
お寺で滝行?それとも教会?
あぁそう言えば、近所に教会がある。
十字架大丈夫かな?不安だけども寺も無いし、取り敢えず教会に行くことにした。
だって、ヴァンパイアって言えば教会っしょみたいな乗りで。
「蓮、俺今から教会に行ってみる。」
「....大丈夫なんですか?色々と。」
心配らしいので、一緒に行く事にした。
「俺の車で行きましょう。」
そこにあったのは、超超高級スポーツカー。
若干引いてしまった。
教会は、門も扉も開いていた。迷える子羊が来ましたよ~。お手柔らかにお願いします。
誰もいない聖堂で、日差しがステンドグラスを透して祭壇に降り注いでいる。
そして十字架を見上げた。
平気だ何ともない。それどころか、まるで自宅の様な安堵感がある。
目を閉じて、意識を集中してみる。
なかなか集中出来ない。
すると蓮が俺の手を握ってきた。普通ならキモいんだけど、また目を閉じて集中してみた。人間だった自分の姿。
「凜さん、目を開けて!」
蓮の愛用ミニ鏡で自分をみた。写ってる!しかも髪色も肌色も元通りだ。
「やった!マジだったな、あの資料!スゲ~、超スゲ~よ!!」
興奮して思わず叫んだら。
銀髪に戻った。
資料は、ちゃんと読むことにしよう。
帰りには、再度チャレンジして元通りになって帰った。
蓮とも友達になれた様だし、これから暫くは楽しく過ごせそうだ。
ただ気になるのは、蓮は自分の話を殆どしない。してくれたら、きっと親友になれる気がする。
一方、華は、俺を見て多少、警戒心が解けたようだ。でもまだちょっと遠い。だけど食事が取れるようになったのは前進だ。ちゃんと味がする。娘とも出来るだけ一緒に食べている。
「蓮、もうすぐハロウィンだから、ケーキ焼くけど食べる?」
蓮は、嬉しそうに笑っている。
さて、ハロウィン。朝からキッチンで、パンプキンのシフォンケーキを作っている。日曜日なので、娘も手伝ってくれている。楽しい。以前より距離が近くなった気がする。パパ嬉しい!
昼前、蓮が家に来た。何故か華と親しく挨拶している。
蓮はリッチマンなのは分かった。手土産がいちいち高級品だ。
他愛のない会話して、3人でゆっくりと楽しめた。自分がヴァンパイアだなんて忘れる位。
ケーキを食べ、華は実家にお泊まりに行った。恐らく何か欲しい物でもねだるんだろう。
大人組は、適当なツマミを食べながら少し早い晩酌をはじめた。
映画の話、旅の話、音楽の話。
蓮と趣味があって、お互い驚いた。出会って1ヶ月位経つが酒も初めてだったな。凄く親近感を感じた。
酔った蓮は、ポツリポツリと今いる街まで来た話をはじめた。
蓮は、資産家の1人息子で大学から、投資家として、稼いでる。親のあとは、継がないけどしっかり自立していたから、何でも自由にしてきた我が儘坊っちゃんだった。
そして、大学で全く金持ちとか興味なしの女性と出会って、数年後結婚。
幸せな話じゃないか。結婚してたのか。驚いたけど。俺がバツイチなのは華から聞いていたようだ。なんか恥ずかしい。
蓮の両親と妊娠中の嫁、小さな長女と家族旅行に行った。
父親の運転で帰り道。
崖から落ちる事故が起きた。助かったのは蓮だけ。
全てを一度に失ったのだ。
退院して、帰宅したら、そこは、余りにも広すぎる家。賑やかな娘の声も両親の笑い声もしない線香臭い家。そこで、1人で生きていくのは、辛かった。辛すぎた。
でも、死ぬ勇気もない。
蓮は、自宅を売り、偶然俺達が住む街に流れ着いた。
まるで、これから俺が、経験するはずの苦しみを蓮は経験していた。
蓮の瞳からハラハラと涙が溢れている。
初めて人に話したらしい。
俺の瞳からも涙が溢れてきた。
愛しい家族を一度に失い、自分だけ生き残って生きていく。
俺達に出逢うまで沢山の女性と付き合ったけど、心の穴は埋まらなかった。
そして、1ヶ月前。
夕陽に包まれながら、歩道に倒れている白銀色の俺。
蓮曰く、無類の女好きで沢山出会ってきたけど、倒れてる白銀の俺は、キラキラと輝き、まるで眠る天使みたいだったそうだ。
2人で居間でごろ寝して、その日は泣きながら眠りに落ちた。
翌朝、まさかの事態になるとは思いもしなかった。
華は実家だから、朝はゆっくり起きるつもりで、遅くまで寝ていた。
蓮の優しい眼差しで目が覚めた。俺も静かに蓮を見つめた。
とても穏やかで、優しい時間が流れる。
あぁ、そういや初めてお泊まりしたな、なんて考えていたら、いつのまにか蓮が俺の目の前に来ていた。
「凜さんの隣は....まだ空いてますか?」
は?何?どういう事?
戸惑っていると、更にイケメンデカ男は、
「俺だけの天使に...なってもらえませんか?」
これってもしかして愛の告白?
呆然としていると
「返事は急がなくて良いです。本気です。」
蓮もかなり勇気だしてコクったんだろう。
「分かった。よく考えてみる。有り難う蓮。」
不思議と気持ち悪いとかは感じなかった。ただ友人と思っていたから戸惑っている。
それから、ヴァンパイアという事実。
取り残される哀しさをまた1人分増やしてしまう。時間が欲しかった。時間がかかると思った。けど答えは、結構早くでた。
そう、かなり早く。お嬢様のご帰還で。
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