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第24話

 蓮は、別れ際、当面の現地通貨とカードとスマホを渡してくれた。英語が出来ないからとスマホに翻訳アプリを入れてくれてた。  列車はゆっくりホームを離れる。蓮が小さくなる。寂しそうな笑顔で手を振ってる。  (本当は蓮に抱きついて泣きじゃくって家に帰りたかったんだよ。)  だけどそうしなかった。自分が許せなかったから。逃げられたのに逃げなかった。・・・蓮は、それはストックホルム症候群だと言ってくれたけど。  当てもなく、列車に乗ってる。取り敢えず、終点まで。  とにかくドイツを離れたかった。飛行機でも良かったけど費用考えたら列車にした。何時帰るか分からない独り旅だ。節約しながら、旅しよう。  最初の夜は列車の中だった。もうナイトウォーカーの相手はしなくてもいいのに、寝付けない。・・・まだ怖いのだ。1年軟禁され、初めて解放された夜だ。怖いのは当たり前か。  向かいの席のご婦人が、優しく微笑んでくれた。言葉は分からないが俺が苦しんでるのが分かったらしい。飴ちゃんをくれた。一年振りに甘い物食べる。美味しい。涙がポロポロと溢れてしまった。ご婦人は慌てて隣に座り抱きしめてくれた。辛うじて、ありがとうと言った。  飴ちゃんの力か、何時のまにか寝ていた。  ん~グッスリ寝たなぁ。ご婦人はもう降りた様で居なかった。ただ、可愛らしいカードにメッセージを残してくれた。  早速、携帯アプリで翻訳。  『貴方の上に、神のご加護が有ります様に。』  有難い。御守りにしよう。携帯で写真を撮り、蓮に送る。  直ぐに返事が来る。  『素敵な出逢いだね、一期一会だ。旅を楽しんで。お土産話し楽しみに待ってる。』  一期一会か。土産話し。俺には帰っていい場所があるのかな?まだ自信がない。  終点に着くと、さて次は何処に行こうか。  携帯で近くを検索した。結構、長い時間。  ん~スペイン?カミーノ。何だろう。  調べると徒歩でかなりの距離を歩くらしい。金かからないな。海外版お遍路か。今の俺に相応しいかも知れない。  よし、このカミーノ歩こう。蓮に次の目的地とかかりそうな日数、カミーノを選んだ理由を送った。  数十分して返事。  『こちらでも調べたよ。有名な巡礼路らしいね。ネットで予約が必要な時は電話して。ウチから予約するから。』  サポートありがとう。  まだスタートまで時間があるから、靴買い直すか。後は在る物で事足りるようだ。  列車でスタート地点の町に着く。シーズンらしく賑わっている。おっと、油断大敵。早速、デッカイ白人男性に声をかけられる。  「ノースピークイングリッシュ!」  小走りで去る。うーん、この能力鬱陶しいな。  「チョット、マッテクダサイ!」  んわっ!さっきの白人さん、日本語できるんか!  「ワタシ、ハジメテ、カミーノアルキマス。」  へぇ、そ、そう。  「イッショ二、アルキマセンカ?」  いや、いや、それはマズイでしょ。どうしよう。最後の手段、蓮に電話する。駅で別れてから2週間振りに声を聞く。  「~という訳、どうしたらいいかなぁ。」  〔代わって。俺が話す。〕  なんか盛り上がってる。ん、何でだろ。  「なんで盛り上がってんの?」  〔ソイツ、俺の知り合い。ケンって言う奴だ。いい奴だから、安心して良いよ。〕  笑ってる。友人か。てか、英語出来たんだ。流石だな。  〔凛のことは説明したから。まぁ日本語教える位に思って、一緒に歩いてくれたら俺も安心するんだけど、嫌?〕  「ん~、そこまで言うなら歩いても良いけどペースがあんまり合わなかったら別々になっても良い?」  〔うん、それは凛が決めたら良い。〕  取り敢えず、一緒に歩く事にした。  「よろしく、ケン。凛って呼んでくれ。」  「ヨロシク!リン。英語サポートシマス。」    スタート地点で、巡礼受付。さっそく英語がわからない。  「ボク、ヤリマス。」  お、有難い。  受付すませて、今夜泊まる巡礼宿を探す。何件か廻ってやっと空いてた。簡易二段ベッド。ケンには狭そうだ。蓮よりデカイ。小さい俺が上のベッド。軽登山靴を脱ぐ。解放感、堪りません。先にシャワー浴びて、夕食。キッチンがあるので、出来るだけ自炊する。俺が作った簡単な夕食を美味い美味いと平らげた。後片付けはケンがやるらしい。  寝るには早いので、中庭に出る。数名の巡礼者が芝生に寝転がって寛いでいる。  「ケンは、何でカミーノ歩くの?」  「ボク、アルクリユウデスか?」  ちょっと間を空けて話し始めた。  彼には奥さんが居て出産間近だったらしい。突然、苦しみ出して病院へ。出産が始まるも大量に出血してしまい、奥さんもお腹の子供も、天国へ旅立ってしまったらしい。  聞いたらまずかったかな。  「ごめん、思い出させて。」  「イイエ、大丈夫。ボクは、何時モ祈ってイマス。」  「そうか、何時も忘れてないって事か。」  「ボクより、リン。リンの方ガ大変デシタネ。キキマシタ。」  き、聞いたんだ。そうか。  「ディウォーカー、キキマシタ。」  そこまで話したのか。軟禁の話もしたのかな。  「リン、アナタは自分をユルサナイトイケナイ。アナタ、ワルクナイ。」  そうかな。俺悪くないのか?逃げなかったのに。  「ん~、カタコトの日本語止めていいですか?」  ゲラゲラ笑ってる。なんだよ、普通に喋れるんか!  「僕、日本の高校から大学院まで行きましたから。」  確かに蓮は、面白い奴とも言ってたな。  「じゃ、日本で蓮と知り合ったの?」  「そう、大学でね。彼は金と女が大好きだったよ。」  そういや、病気かと思う位女好きって自分で言ってたな。  「だから、凛がパートナーと聞いて驚いた。」  はぁ、まぁ。俺、男だしな。  「確かに凛は美しい部類に入る人間だけど、男だからね。ビックリしたよ。」  おや、ケンはどうやら、俺の能力効いてない?  「いくら綺麗でも、僕はゲイにはならないな。」  ん、なんかムッと来たぞ。ケンは俺のディウォーカーの姿知らない。ま、見せる必要はないんだけど。  何だかんだ、蓮の女遍歴を聞いたり、自分の娘がヴァイオレンス気味で大変とか話してたら、休む時間になった。  早朝、下から蹴られて目がさめる。  早朝、出発して午後イチで、宿を確保するのが、巡礼のパターンらしい。  ヘッドライト付けて、ケンの後を歩く。地図読めないし。牧場を歩き、山を越え、予定通り午後イチに宿確保。凄く健康的なリズムだ。シエスタさえ、無けりゃね。  売店がシエスタで一斉に閉まる。間に合わないと数時間飲食が出来ない。山ん中に店ねーよ!仕方なく今夜は外食だ。初っ端から贅沢したくなかったんだけど。  シャワー浴びて、レストランへ。巡礼者メニューがあって、お得に沢山食べれるらしい。ケンが頼む。  「俺、あんまり量食べれないよ?」  「気にするな。食べ物より血液が良い?」  え?いや、まだ渇いて無いけどそこまで話たのか。蓮。  「もう少し太らないとダメだ。歩いてカロリー使うから意識して食べないと。」  身長の割に細過ぎると言われた。確かに軟禁の間にかなり痩せてしまった。うん、頑張って食べよう。  数日、特に変化なく、巡礼パターンで順調だった。  2人とも疲れが溜まって来てたのは確かだ。ケンは足の肉刺に苦しんでた。痛いのが嫌らしく、潰さなかったのだ。かなりデカイ肉刺になってる。しょうがないので、携帯で肉刺の処置のやり方を見ながら水を抜く。  「う~ん、気持ち悪い。」  確かに。肉刺に糸垂らして乾くのを待つしかない。巡礼者は結構悩まされるらしい。  俺は俺でなんか熱っぽい。シャワーが冷水だったりするんだ。風邪引いたのかな。ディウォーカーなのに。情けない。  シャワー、温水だった。温まって寝る事にした。夕食は入らない。ケンが心配してる。  「大丈夫。寝たら治るよ。」  「明日、熱引かなかったら、もう一泊頼むよ。病院に行くか薬局に行かないと。」  友人のパートナーが倒れたんだ。落ち着かないだろう。多分、俺の事頼まれてる筈。病院は行けない。だって俺人間じゃない。ケンが俺の頭を撫でている。蓮みたいだ。会話が終わる前に眠りに落ちてしまった。  翌朝、熱引かなかった。ヤバイな。病院は行けない。ケンが宿に交渉してもう一泊、頼んでくれた。基本、巡礼宿は格安だが、一泊が決まり。  熱が引く方法は1つある。血液摂取だ。でも、ここには血液パックなんて無い。情けない。どうしよう。また蓮を頼る?独り旅の意味が無い。  「蓮に電話してみない?どうすれば良いか、考えよう?」  「病院には行けない。俺はディウォーカーだ。人間じゃない。薬も効くか分からない」  フゥッと溜息。溜息まで熱い。  「でも今は立派な人間の病人だ。最後まで歩きたいだろ?蓮は喜んでサポートするよ。」  仕方ない、また電話する。多分夜中の筈。  「もしもし、ケンだけど・・・」  〔凛、大丈夫か?熱って一晩経っても引かないのか?〕  「うん、熱だけなんだけど。あんまり続くならリタイアするか、安いホテルに移らないといけない。巡礼宿は長居出来ないんだ。」  〔華に、飛んで貰うか?血液パック持たせて。〕  「イヤ、いいよ。独り旅の意味が無い。」  〔もう、独り旅じゃないだろ。ケンも居る。周りに頼れよ。〕  「うん、ケンには助けられてる。有難いよ。」  〔・・・ケンに代わって?〕  ケンと暫く話している。真剣な顔だ。電話を切ると  「ディウォーカーの話、詳しく聞いた。ディウォーカーになって血液摂取出来れば回復するんだね。」  「・・・多分。」  ケンは、周りに誰も居ない事を確認して  「ディウォーカーになって?僕の血液を飲むんだ。」  そんな事出来ない。人間から直接飲むのは、病院にいってから止めた。  「ほら、早く。人が来たら面倒だ。」  それでも、躊躇する。  「凛。僕は、蓮も君も信用してる。蓮は金と女が大好きだが、他人を裏切ったり、嘘は付かない立派な男だ。だから今でも友人なんだ。」  差し出された健康的な腕。蓮の腕を思い出してしまう。泣き上戸だな、俺。また涙目になってる。  スゥッとディウォーカーに戻る。白い肌に銀髪に近いブロンドに金色の瞳。ケンはその姿を見て絶句している。そうだよな、気味が悪いよね。  「ごめんね、ケン。少し血液貰う。お返しはちゃんとするから。」  ケンの逞しい腕に口を這わせ噛み付く。新鮮な血液。もう2年近く振りじゃないだろうか。華と蓮をディウォーカーにした時以来だ。  ゴクゴクと飲む。ケンは、恍惚な表情をしている。もう、良いだろう。1分くらいか。それでもかなり飲んだ。力が漲る。傷口を舐めて血を止める。  「ん、熱引いてきた。新鮮な血液だからかな。」  ケンが我に帰った。  「ちょっ、ちょっと、トイレ行ってくる。」  二段ベッドの上から見送る。我慢してたのかな。ちゃんと熱が引くまでこの姿でいよう。頭まで、すっぽり寝袋に入る。そう、巡礼宿には基本、布団はない。マットと枕、シーツだけだ。身体が回復するのが分かる。ウトウトしてきた。今日は、ここでもう一泊するから、一眠りしよう。少し顔出して微睡んでいた。ケンがパタパタと帰ってきて、俺を覗き込む。また頭撫でてくれる。まるでパパさんだ。俺の方がずっと年上なのに。  「こんなに美しいとは思わなかったよ。」  そう呟いた気がしたけど眠ってしまった。  目が覚めると夕食の時間だ。ここはキッチンがあるから、自炊しよう。もう他の巡礼者が入ってきてる。あ、ヤバイ。ディウォーカーのまんま。人間に変化するタイミング失ってしまった。  「ケン、ごめん、さっきは有難う。熱は引いたんだけどさ、人間になるタイミング、無くしちゃって。暫くこの姿だけど平気?」  かなり目立つ筈。  「ん?大丈夫だと思うよ。日本じゃないから、ブロンドも目立たない。」  あっそうか。そういや、外見なら、白人さん達に紛れてしまう。だったら、この姿が楽だし、当分このままで行こう。  「ただね、その凛の能力?蓮から聞いてたけど、人間の格好してた時よりかなり強く出てる。だから、気をつけて。」  ふむ。それは面倒だな。早めに変化できるようにしよう。  今日は簡単にスパゲティ。とにかく食えればいい。食って寝る。それが一番。ケンは周りの視線、特に男性が俺を見る視線が気になる様だ。  「大丈夫。俺、か弱くないよ。」  クスクス笑う。  「ダメ、笑顔なんて見せたら余計、集まっちゃう。」  まるで番犬だな。余計に笑ってしまう。  「だから、ダメだって~」  早く食って食堂でりゃいいだろって言ってがっつく。  そんなこんなやってる内にもう巡礼も後半戦だ。脚にも筋肉が付いてきた。宿に着いて、時間があれば筋トレ。重い荷物持って旅してるからか、身体もガッチリしてきた気がする。食べる量も増えた。ただ、オンシーズンで巡礼者が多くって、まだディウォーカーのまんま。ケンはすっかり番犬になってしまっている。俺もケンから出来るだけ離れず、女性の側に居る。これが意外にも楽しい。海外でも中性的なのが受けるのかな。キュートとかビューティフォーとか何か女性巡礼者が言ってる。伸びた髪が邪魔だなぁと弄ると女性からヘアゴムを頂いた。うーん、役得?  早速、髪を後ろでアップする。  後ろでケンが呆れてる。何で?  「あのさ、言いたくないけど、自覚なさ過ぎだよ凛」  そう言って写真を撮る。誰かに送ってる。  俺の携帯がなった。  「もしもし?あれ?蓮、どうした?夜中だろ?」  〔その髪型止めて。もっと下で結ぶか、途中の街で髪を切ろ。〕  「何でだよ。結ぶの楽なんだけど。」  〔ケンの写真みてないのか?見てみろ。意味分かるから。〕  そう言うと電話は切れた。なんか怒ってる。  「ケン、写真みろって言われた。見せて。」  モデル以外で、自分の写真見るの滅多に無いな。  「・・・・」  髪をアップした自分の姿。どう見ても女性だ。しかもなんかエロ。  直ぐに髪を下ろした。  「次の街で切るかな。ハハハ。」  わかったか、とケンも呆れてた。  はい、ごめんなさい。以後気を付けます。  そういえば変わった事がある。酒飲める様になった。巡礼路は、ワインの産地が続く。街によって地元のワインを楽しめる。道の途中には無料で巡礼者にワインを振る舞う場所まである。先日も調子に乗って少々飲み過ぎてケンにおんぶされて宿に戻った。  もうすぐ、サンチャゴが見える丘につくよ、とケンが教えてくれた。感慨深いものがある。巡礼ももうすぐ終わる。そういえば、血液のお礼するとか言っておきながらしてない。それに世話になりっぱなし。うーむ。お礼は何がいいのかな。  今日は、サンチャゴの街の入り口にある巨大な巡礼宿に泊まる。朝一でサンディエゴデコンポステーラに入る。大聖堂があるんだ。大香炉が有名らしい。見てみたい。今日は巡礼最後の日だ。少し位贅沢も良いだろう。町外れのレストランに行く。ワインで乾杯♪約800km徒歩の旅が終わる。寂しさと満足感で祝杯を上げる。  ん~ワイン、甘口美味いなぁ。食事もそこそこで、ワインが進む。  「おい、凛。最後の最後でまたおんぶは勘弁してくれよ。」  「え~今日は無礼講だよ?わかる?無礼講!」  既に酔っ払っていた。  「そこまで。明日大聖堂行くんだろ?二日酔いとか止めてくれ。」  うーん、わかったよ。後は食事もしっかり食べて宿に戻る。今日の宿は二段ベッドがくっついて並んでる。俺はずっと上だったから下で寝たくて、丁度ケンと並んで場所を確保していた。シャワー浴びてベッドに入る。明日の為に早く寝よ。いも虫みたいに寝袋でモゾモゾ落ち着くポジションを探す。 そんな事をやってる内に酔いもあって眠ってしまった。ケンが血液を与えからどんな気持ちで居るかなんて考えもせずに。  朝、目が覚めるとケンにピッタリくっ付いて寝てた。ケンはまだ寝てる。そーっと離れる。  いかん、いかん。ケンも男だ。俺の影響を少なからず受けていた筈。だけど旅の間、絶対性的な眼で俺をみなかった。それどころか、番犬の如く守ったり注意したりしてくれた。血液まで与えてくれた。紳士的なケンに甘えている自分に反省した。  身支度してる間に起きた様だ。  「おはよう。よく寝れた?」  「・・・誰かさんが、くっ付いてきて寝苦しかった。」  あーマジか。  「ごめん。寝れなかったのか。今日、大丈夫?」  「大丈夫。寝れたよ。まぁ誰かと間違えてるの分かってるし。」  笑われた。恥ずかしい。  朝飯をかきこみ、早目に出発。巡礼事務所が混むからだ。  巡礼事務所で到着の手続き。巡礼証明書が貰えた。  その足で大聖堂へ。今日は教会の祝日で大香炉が、出るらしい。早目に場所を取りに行く。祭壇の近く、良い場所が取れた。昔の巡礼者の体臭が凄くて始まったとか何とか。デカイ香炉がものすごい勢いで振られて香の香りが聖堂内に満ちる。 約50日。俺が体力落ちてたから、ゆっくりしたペースで歩いた。ケンは離れる事なく合わせてくれた。身の回りの世話まで。感動しちゃって、眼が潤む。髪は切り損ねたけど、ディウォーカーのまま、言わば素顔のまま、ゴール出来て嬉しい。サンチャゴの像に感謝のハグをして聖堂を後にする。  「あのさ、血液くれた時お礼するって言っただろ?その後も色々世話になっちゃってさ、御礼何がいい?」  「ん?御礼?そうか、そうだな。」  耳元で囁かれた。  「ちょ、ちょっと待て。それは駄目だろ。俺には蓮が・・・」  「言わなきゃバレない。」  「だけど、ゲイにはならないって。」  反論は無駄だった。蓮より背が高いケンに抱き寄せられ、キスをした。爪先立ちで、ケンの肩にしがみ付く。余りに深いキスだったんで、驚いた。肩をパンパン叩いてギブアップ宣言。  「浮気にはならないよ。僕の片思いだ。気にするな。」  いや、気になるだろー普通。  ケンは自分の国、イタリアに帰った。俺はてっきり日本に帰ると思ってたらしい。まだ独り旅、続けるっと知るとかなり心配した。  「早く帰ってやれよ。蓮が可哀想だ。」  帰れる時期が来たら帰るよ。うん。帰りたいけどまだだ。ケンを空港で見送るとまた行き先を考えなきゃいけない。  うーむ、北?東?西?南?時期的に西や南は暑そうだな。北欧行くかな。言葉分かんないけどね。  バックパックを背負い直し、チケットカウンターへ。  蓮にメール。  北に向かう。帰らなくてごめん。もう少し時間が欲しい。  返信はすぐに来た。  気をつけて。何かあったら、直ぐに呼ぶ事。  ありがとう。もう少し、あともう少しなんだ。

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