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秋の夜長かな。
もうすっかり晩秋。
日が落ちるのが早くなった。流石に暖房まではいらないが、この家の当主、凛は、寒がりで膝掛けじゃ間に合わないらしく、リビング用に毛布を買った。
俺は時差がある海外の株の値動きをチェックしていつもベッドに入る。
リビングでは、たまに俺の仕事を待って遅くまで起きてる凛がいる。
付き合い始めて30年も超え、普通なら空気のような関係になってもおかしくないが、俺の凛への愛情や情熱、独占欲は増すばかり。
何故か?不老不死とは理解していたが、凛は、歳を重ねる程に美しくなる。髪も肌も目鼻立ちすら、衰えるどころか若返ってないかと思うほどである。
凛曰く、俺もらしいが、鏡に映る訳でもないので、わからない。
一緒のマンションに、華夫婦も、天馬夫婦も暮らしていたが、其々に仕事ややりたい事もあって、皆、旅立っていった。
凛は、少し寂しそうに我が子2人の旅立ちを見送っていた。
一箇所に留まれない生活、数十年なんて同じ場所に住めないのだ。前途の通り、歳をとらない、老けないからだ。
裕太とロイは、ドイツに旅立った。数少ない友人が居なくなって、仕事で外界と繋がってる俺と違い、凛は独りぼっちになってしまった。
「なー、凛。」
「ん?何?終わった?」
「いや、まだ後少しだけどさ。」
「うん。何?」
「俺たちも、引っ越さない?好きな場所にさ。んで、友達、作れよ。凛、独りぼっちだろ。」
「ん。だけどなぁ、新しい土地で、最初からやり直しも、面倒だよなぁ。」
「んな、ヒッキーみたいな思考じゃ、外見若くても中身が老けるぞ。一日中、家の中じゃん。」
「買い物くらいかなぁ。人と喋った記憶、思い出せないや。」
「世界中、どこでも良いんだよ?住みたい場所、探してみたら?」
「蓮はいいの?仕事とか。」
「ネットが繋がりゃどこでも良いよ。凛がテレビ以外で、笑ってる生活が良い。」
「あれ?俺笑ってない?」
「うん。華と天馬が居なくなってから、すっかりな。抜け殻症候群。ボケるぞ。」
「抜け殻かぁ。そうかもなぁ。天馬も良い大人だしなぁ。パートナーが、女の子でも孫の顔は見れないし。」
一人息子のパートナーは立派な青年です。はい。
彼も長く天馬と付き合い、引っ越す前に、ディウォーカーになった。
「新しい土地見つかるまで、ワガママ言っていい?」
珍しい。言いたい事我慢したり、自ら身を引いて大変だった凛から、ワガママとは。
「あのさ、んー、も少し、蓮と一緒の時間が欲しい。あ、エッチ抜きね?すぐ盛るから。違うからね。」
念は押されたが、嬉しいじゃないか。大人2人、特に趣味も無く、浪費もしない。あくせく稼がなくても良い。
「嬉しいね~。スケジュール見直すよ。」
「そんな嬉しい?顔ニヤニヤしてる。」
「そりゃ嬉しいでしょ?凛から甘えてもらったんだから。」
「ん、そうか。フフッ、俺も嬉しいや。じゃ、今日は先に寝るね。」
え?今の流れでそうなるの?
基本、淡白な凛だから仕方ない。
BGMつけたまま、眠ってる凛を眺めながら、寝る前に晩酌。
アデルのハロー。
凛の盲目事件の時、関係を修復するキッカケになった曲だ。いろんなカバーが出て楽しめる。
壊された指輪も以前の指輪に近いデザインの物を大切につけている。美しい指にピッタリだ。艶やかな薄い金髪に指を通す。
ハリはあるが、硬くは無く、柔らかで触り心地が良い。長い睫毛が時折震えて、キスしたくなる。
(また、子供欲しいと願ったら聞き入れてくれるだろうか。)
贅沢な願いだな。
こんな美しい生き物のDNAを残したいと思うのも致し方ない。天馬も美しく育った。
(さて、今夜は大人しく寝ますか。)
音楽を止め、そっと凛の眠るベットに潜り込む。すると、眠って居てもモゾモゾと腕の中に潜り込んでくる。居心地が良いんだろう。
もう、浮気しないで。側にいて。
精一杯の言葉だったね。俺の人生を狂わせた責任を感じて、言いたい事も我慢して自分の身体を崩しても、俺を責めなかった。
単細胞の万年発情期の馬鹿な俺は同じことを何度も繰り返して、凛を追い詰めた。
こんなクズ男をそんなに好きで居てくれて有り難い。いっときは、天馬から、愛情じゃない、依存してるだけだ。と言われ追い出されたもんだ。
凛、俺の人生は狂ってはいないよ。
凛の隣にいれる奇跡に感謝してる。しかも独占してる。
世界中の誰よりもハッピーだ。
凛の柔らかな髪に頭を擦り付け、シャンプーの良い香りに癒されながら、眠りについた。
数日後、何やら雑誌片手に興奮気味に、凛が仕事部屋に。
「い、今いい?大丈夫?」
「うん、いいよ、大丈夫。」
「俺、これ、これ観に行きたい!」
ん、どした?どこ?
「長崎?近いじゃん。いいの?」
「うん、ランタンフェスティバル。行きたい!それに郊外に、遠藤周作文学館ってあるし、ほら、教会群がさ何とかッーに選ばれたじゃん。周りたい!」
「そうか、凛、教会好きだもんな。キリシタン関係だろう。長崎か。観たいの沢山あるな。」
「そ、そ。蓮は軍艦島とかじゃない?」
「あ、そうか、あれも長崎か。いいね。ゆったり時間とって行くか。」
「いいの?ヤッター!まだ先だけど嬉しい!」
「郊外に行くなら、車だな。のんびり行くか。」
「うん!楽しみ!」
「何だ、もうガイドブック、付箋だらけじゃん。」
「うん、行きたいとこ、一杯あるから。」
「・・・市街地は、ほぼ、スィーツばっかだな。俺、地獄じゃん。」
「そんなことないよ。角煮まんとか、豚まんとか、海の幸山の幸も沢山。」
「あ、色が違うの俺の好みか?もしかして。」
「うん。お酒もほら、評判いい店とか。」
なんか、スゲーいい嫁貰った気分。嫁なんて言ったら、怒られそうだけど。
「あのさー。長崎旅行行くでしょ?」
「うん、何?」
「俺のコレクション持ってっていい?」
暫し沈黙。
「い、一個まで。使うのはホテルだけ!それが守れるなら良いよ。」
「はーい!ランジェリーは玩具に入りますか!」
「・・は、は、はいりません。」
旅行めっさ楽しみになってきたぜ!
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