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第1話 俺の天使 1
「龍 ちゃん、助けてー!」
校門を出ようとしていていた龍晟 の耳に蒼 の声が飛び込んできた。
『あ、あおたん♡』
一瞬にしてハイになった龍晟が振り返ると、蒼がすごいスピードでこちらに向かって走ってくる。その後ろからは男が3人、更にその後ろからは女子がきゃあきゃあいいながら5人ぐらい追いかけて来る。
キュキューっと龍晟の横で急ブレーキをかけた蒼が隣に並んで歩き始めた。
「龍ちゃん、一緒に帰ろ?」
蒼が龍晟を見上げながら笑って言う。
『あおたん、今日も天使みたいにキラキラしてる』
そう思いながら
「いっぱい追いかけて来てるけど大丈夫か?今日は男子までいるけど」
と聞いた。
「いいのいいの。体育祭で今年の白組の応援は男が女装してチアやることになったらしいんだけど、それの勧誘されてんの。そんなの絶対嫌だもん」
『あおたんのチア見てみたいけどな。絶対キレイだぞ。だけど他のやつ、ていうか全校生徒にあおたんの美脚見られちゃうのもなー』
華麗な技を決めまくる蒼の姿を妄想していると、
「花村君、待ってよ、話だけでも聞いてよ・・・」
追いついてきた男子たちがゼイゼイ息を切らしながら訴えた。
「嫌だって言ったじゃん。なんで俺が女装してミニスカはいて、踊ったりしなきゃなんないの?俺は去年の龍ちゃんみたいにかっこいい応援団がしたいのに。もう、何とかして赤組に変えてもらおっかな」
「ぎゃー、それはダメダメ!花村君は競技の方でも大事な得点源なんだから!」
「そうよー、花村君が白組になったから是非ぜひ女装チアでって意見がいっぱい出たんだからー」
追いついてきた女子達もはあはあ言いながら蒼を取り囲む。
「今日はもう帰りたいんだけど。龍ちゃんを待たせてるし」
それを聞いた全員がびくっと硬直し、二、三歩離れて立っていた龍晟をギギギギと音を立てるような不自然さで振り返った。
「や、八神先輩、お、お疲れ様です」
「じゃ、じゃあ、花村君、また明日ね。考えてみてね」
龍晟が気にしなくていいと言う前に、取り囲んでいた面々はぺこぺこと頭を下げて校舎の方へ戻っていった。
「蒼、よかったのか?」
「うん。どうせまた明日追いかけられると思うけど」
再び並んで歩き始める。
「あーあ。俺も龍ちゃんみたいにかっこよく学ラン着て応援団やりたかったのにな。だけどまあ、あれは龍ちゃんだからかっこよかったのか」
「そんなことない」
「何言ってんの。龍ちゃんの応援団長、超かっこよくて女子の黄色い悲鳴がすさまじかったじゃん。応援合戦のファン投票、圧倒的に差をつけて勝ってたしさ。俺も見てて惚れ惚れしたもん」
『あおたんにカッコいいって思われたくって頑張ったんだ』
「ねえ、龍ちゃん、今年は赤組?白組?」
「今年は白だ」
「あ、今年は一緒なんだ!じゃあ、もし白組が勝ったら優勝旗を受け取るのは龍ちゃん?」
「ああ、多分な」
「じゃあ、勝たなきゃ。俺、得点の稼げる競技は全部出よう。応援合戦は・・・あれ結構配点があるんだよな。どうしよう・・・」
「蒼、チアリーディングで女装して笑いを取る方向で票を集めるっていうのもいいかもしれないけど、どうせ男がやるならスポーツチア風にして技で魅せるっていう手もあるかもな。まさにそういうのお前の得意とするところだろ。この時期、きっとまだ実行委員も詳細は詰めてないだろうから、二年が中心でやるんだし、お前の求心力でそっちの流れに持っていったらどうだ?」
「なるほどねー。さっすが龍ちゃん!」
そういうと蒼はぴょんとジャンプして龍晟の背中に飛び乗った。
「おいおい」
と表面上は鷹揚に笑いながら『うお、あおたん。そんなに引っ付いたら鼻血がでちゃうよ』と龍晟の大きな体の内側はバクバクと忙しかった。
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