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第2話

***** 俺と(あお)は小学生のころからの幼馴染だ。俺が小学校5年の時に近所に引っ越してきた。 俺と同じ年の姉の翠(ミドリ)と一つ下の蒼(アオ)。 最初に二人を見たときには天使の姉妹が空から舞い降りてきたかと思った。二人の母親はアメリカ人で、二人ともゆるくウェーブのかかった茶色い髪に、翠はグリーンの蒼はブルーグレーの瞳をしていて外国の宗教画にでも出てきそうな容姿だったからだ。 蒼が男の子だと知ったときは本当にびっくりした。外国暮らしが長かったらしく、父親は日本人なのにあいさつ程度の日本語しか話せない二人だったが、俺はすっかり魅了されてしまった。 何しろ、うちは男ばかりの三兄弟。しかも空手道場を開いている(おとこ)くさい父親と 獅央(シオウ)という8つ上の漢くさい長男と、虎牙(コウガ)という4つ上の漢くさい次男と、クラスメートから頭一つ飛び出たガタイの俺。 二人がわからない言葉で話しながらクスクス笑っているのは、まるっきり天使にしか見えなかった。  俺と同じ小学校に転入してきた二人だが、やはりあっという間に注目の的となった。そして、ちょっかいの対象となった。 日本人ってのはちょっと自分たちと違うものに過剰に反応するだろ?その上二人があまりに綺麗すぎるもんだから、よく好きな女の子にわざと意地悪しちゃうみたいなアレが重なって。おまけに言葉も通じないもんだから。 そして俺は弱いものは守ってやれという漢くさーい環境で育ってきたもんだから、見かねるちょっかいには防御壁になってやったわけだ。俺がガタイがいいだけでなく、道場の息子で空手の試合なんかに出てるって学校では有名だったから、俺が「その辺でやめとけよ」と一言いうだけで効果は絶大だった。 自然と翠と蒼は俺を頼るようになったし、懐いた。二人に「リューセー」って呼ばれるのがくすぐったくてたまらなかった。 しばらくすると二人はうちの道場の少年部に入門してきた。 「自分の身は自分で守りたい」と翠が言い、「リューセーがかっこいいから」と蒼が言ったと二人の父親が訳していた。 翠と蒼は週に2回熱心に稽古に通って来たので、ますます俺と仲良くなった。 そしてどんどん日本語がうまくなった。 二人が入門してきて驚いたのは、二人の運動神経の良さだった。 聞けば、二人の母親は色々な面白い経歴を持っていたが、一時期サーカスで空中ブランコをやっていたというのだ。 一方、父親は世界を放浪してノンフィクションの本を書くライターで、その放浪先で母親と知り合ったらしい。 そんな両親の遺伝子を受け継ぎ、素晴らしい運動神経と、度胸、その上美貌まで持ち合わせた二人は、見る間に頭角を現し、蒼が中学生になるころにはすっかりアイドル的存在になっていた。 一方の俺は、八神家の漢くさい遺伝子をしっかり受け継ぎ、いかつい顔にやはりクラスメートから頭一つ以上飛び出したガタイのむさくるしい男になり、強面と低い声と口数の少なさから必要以上に周りから怖がられる存在になっていた。 それでも翠と蒼とはずっと仲が良かった。 翠は見た目は超絶かわいいハーフモデルのようだが中身はサバサバしていて変に女子扱いしなくて済み、気が合った。 蒼は・・・とにかくかわいかった。すっかり日本語らしくなったイントネーションで「龍ちゃん、龍ちゃん」とまとわりついてくる。 磁器のように白い肌、長い睫毛に光の加減によってブルーに見えたりグレーに見えたりする瞳、ピンク色の唇。相変わらず天使のようだった。 その天使がどこに行くにもついて来ようとするのだ。 かわいくないわけがない。

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