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第83話

テーブルに買ってきたデリと缶ビールを並べ、ソファーに並んで映画を見る。結局、王道のスパイ映画の最新作を二人ともまだ見ていなかったので、それにした。 「ショーン・コネリーは別格として、今まではピアース・ブロスナンがスタイリッシュで一番好きだと思ってたけど、ダニエル・クレイグもいいなあ。ブロスナンが王子様系でキラリンとした感じなら、クレイグは振りかざさないけど漏れだす色気?小柄だけど、あの肉体たまんないね!」 「そうだな。あんなおっさんになれたらいいな」 「龍ちゃんなら年とってもそんな感じになりそう!楽しみー!」 甘えて隣にもたれかかる。 「蒼はどっちかっていうとブロスナンだな。でもあと何年かしたら、さすがに『我が社の弟』ではいられないだろうから、どんなふうになってるんだろうな」 「!!なんでそれ知ってるの?俺、もう28なのに恥ずかしんだよーそれ。そんなに俺って頼りないの?」 くっくっくっと笑いながら龍ちゃんが言う。 「そういうわけじゃないだろ。たぶん、みんな可愛いんだろ?俺も、そう思うしな」 「可愛い・・・うーん。俺、龍ちゃんにしか甘えてないつもりなんだけどなあ」 「そうだな。甘えるのは俺だけにしてくれ」 そう言ってキスをしてくる龍ちゃん。やっぱり、昨日からの甘さが続いている気がする。 「ねえ、何か話があったんでしょ?」 龍ちゃんに尋ねると、頷く。でもその表情から悪い知らせではない気がする。 龍ちゃんの方を向いて座りなおす。 「この半月ほどの間に、色々と考える事があったんだ」 龍ちゃんが話し始めた。 「最初は、出張の直前に上司から見合い話を打診されたことだ」 え?見合い? 「専務が俺に興味を持っていて、娘と会わせてみたいと言っているという話だった。うちの会社は激しい抗争こそないものの、歴然とした派閥がある。多分それに俺を取り込みたいと考えたんだろうな。上司も俺が出張前で忙しい事が分かっているから、返事は先でいいと言った」 龍ちゃんは化粧品事業が無事に船出するとすぐに元の部署の上司が取り返しに来たほどだ。派閥があるなら、自分の方に取り込みたいと思うのは当然だろう。 「蒼に話そうと思ったが、ちょうど二人とも忙しくてゆっくり話をする時間が無かった。それに、俺はその話は最初から断るつもりだったしな。でも、断るにしても何らかの波紋が広がるわけで、これから先の事を真面目に考えるきっかけになった」 これは思っていたより大事な話なのかもしれない。俺はゴクリと唾を飲んだ。 「その後、すぐにシンガポールとマレーシアを回って・・・一人寝が寂しいと言ったのも本当だが、それ以上に綺麗な景色を見たら蒼に見せたい、美味いものを食ったら蒼にも食わせたい、そんなことばっかり考えてることに気が付いた。最後の方は早く蒼の待っているこの部屋に帰りたいとばかり思っていた」 そんな風に思ってくれていたんだ・・・。

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