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第82話
結局、近くのショッピングモールに買い物に出かけることにして、車で出発した。今日は俺がハンドルを握る。この車も二人で乗るために大きめのSUVを俺が買った。
龍ちゃんは駅前のマンションに越してくる前に、都心ではあまり使わないと研究所時代まで乗っていた車を処分していたし、俺も車を持っていなかった。一旦、車を買おうという話になると、そこは男同士、どんな車にするかで大いに盛り上がった。結局、この大きなメタリックブラックのSUVで意見が合致したわけだ。
龍ちゃんはかつて結婚するつもりでこのマンションを買い、住宅ローンを払い続けているので、ここに越してくる条件として生活費と車は俺が持つと主張して聞き入れてもらった。俺は全てを龍ちゃんに依存したい訳じゃない。甘えたいのは心の部分だけなのだ。
「蒼、晩飯はどうする?」
助手席の龍ちゃんが聞いてくる。
「んー、なんかモールでおいしそうなデリでも買って帰って、映画見ながら食べるっていうのは?viva、堕落した生活!」
ははっと笑って龍ちゃんが了承する。そしてこう続けた。
「俺も、ちょっと話したい事があるしな。家でゆっくりできる方がいい」
話ってなんだろう?
改まってそんな風に言うなんて、まさか転勤になりそうとかじゃないよな?
そんなことを考えているうちに、駐車場に着いた。
ショッピングモールは日曜と言うこともあり、混んでいた。そのほうが目立たずいい。ひときわ背の高い龍ちゃんと、パッと見が外人の俺が並んで歩くと少し人目を引くと最近気が付いたのだ。
俺は龍ちゃんに、会社では俺と付き合っていることもバイであることも伏せるように言っている。仕事で出入りしていたし、龍ちゃんや仲良くなった山崎君の話を聞くにつけ、M社は考えの古い年配の管理職が多く、龍ちゃんに不利に働くに違いないと思ったからだ。
婚約の話もまだ会社に報告する前だったそうだから、婚約破棄になったこともその理由も会社には伝わっていないはずだ。
だから、俺も外で出歩くときは決して馴れ馴れしさが出ないように、ただの友達同士に見えるように気を付けている。
次シーズンに着る服を買おうとお気に入りのショップへ向かう。
ここは大きなサイズも置いているので、まず龍ちゃんにグレーの一見シンプルだが凝った織地のシャツを勧める。龍ちゃんは普段シンプルな服が多く、それもよく似合うのだが、ちょっと今日はいつもと毛色の違うものを選んじゃおう。それから、Vネックのニット。このしなやかな素材は着る人を選ぶ。なで肩や腹の出た人は論外だし、痩せぎすでもこの服の良さは半減してしまうだろう。
その二つを持たせて、フィッティングルームに押し込む。試着をした龍ちゃんを店員が褒めそやした。お世辞だけじゃないだろう。
グレーのシャツは元々履いていた細身の黒のパンツにも合っていて、色気が半端ない。ニットの方は俺の予想どおり、龍ちゃんの鍛えられた体を美しく覆い、健康的なセクシーさ?ああ、抱きつきたいー。
俺と店員に絶賛され、龍ちゃんはこの二つをお買い上げ。
その後、俺は自分の服と小物と仕事用のネクタイをいくつか見繕った。
「お前、すごいな。こんな柄物の服、どうやって着るんだって思って見てたのに、蒼が着るとしっくりくる」
「お客様、もの凄くセンスがよろしくて、小物のあしらい方も抜群ですよね。もしかして服飾関係の方ですか?」
店員もおべっかを使う。まあ仕事柄、おしゃれには気を使っているのは本当だけどね。
その後はデリカテッセンで晩飯用をいくつか選び、食品スーパーで普段の食材を調達して帰った。
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