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いい夫婦
11月22日ですね。
いい夫婦の日ですね。
という事で、うちのとても良くできた夫婦?夫夫?のお話です。
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今日は朝から結構バタバタだった。
晩御飯の準備を充彦に任せ、ソファに体を深く沈めながら溜め息をつく。
......腕の中には、小さな小さな愛しい存在。
「おい、これ濡らしたタオル...って、あら、寝ちゃったか」
「うん、やっと。さすがに泣き疲れたかな? 今顔拭いたら起きちゃうかもしれないから、もう少し後にしようか」
下手にソファを揺らしてはいけないと思ったんだろう。
充彦は俺の足許に座ると、目を細めながらその愛しい存在...アレックスの頭をそっと撫でた。
今日は中村さんとアリちゃんの入籍記念日だそうで、久々に仕事が休みだという二人をのんびりさせてあげようとアレックスをうちで預かる事にした。
普段からうちにはよく遊びに来てるし、俺らにもなついてくれてるし、大した問題は無いと思ってたんだ。
1日くらいならわけないだろうって。
......いやあ、ほんと甘かった。
うちに来てすぐはご機嫌だった。
アリちゃんがちゃんとお気に入りのオモチャを持ってきてくれてたし、ハイハイしまくっても問題無いように部屋中綺麗にしたし危なそうな物も片付けたし。
俺と充彦もアレックスと同じようにハイハイしたり顔くっつけたり追っかけっこしたりと、すごく元気に遊んでくれてた。
お昼だって、俺が作った野菜のお粥をモリモリ食べてくれたし、食べながら山盛りのウンチして得意気に笑ってたし。
お尻洗うがてら風呂に入れてやった時も、ほんとにご機嫌だったんだ。
すごくご機嫌で楽しそうで、1日楽勝だ!なんて思ってたんだけど……
風呂上がりにお昼寝して、目が覚めてからが大変だった。
いつもと違う環境にやたらと興奮してるうちは何ともなかったけど、起きた時に最初に見えた顔がアリちゃんじゃない事で不安になったんだろう。
お母さんを求めるように泣き喚き、抱き上げれば全力で拒むように体を反らし暴れ、しまいにはゲーゲー吐いちゃって。
どうにもならなくてアリちゃんに電話したら、『すぐに迎えに行く』って言ってくれた。
ついでに電話口でアリちゃんの声を聞かせたら、それまでの大暴れが嘘みたいに大人しくなったアレックス。
しばらくはまだグズグズしてたけど、ようやくさっき俺の腕の中で眠り始めてくれた。
「あーあ、せっかくのんびり二人でデートさせてあげたかったのになぁ...」
「でも、アリちゃん喜んでたよ、『久々に二人だけで映画観られた』って。それだけでも立派にデートだったんじゃない?」
「うーん…それならいいんだけどさ……」
今はただ半分白目を剥きながらスースー眠るアレックスの、ちょっとカサカサになった頬を撫でる。
小さくて愛しくて、だけど結構やっかいでめんどくさい生き物。
自分一人では何もできなくて、誰かがちゃんと見てあげないと生きていく事もできない存在。
アレックスを抱いていると、思い出せないはずの昔を思い出す。
大切にされたと...本当に大切にされていたのだとわかる。
それを言ったのは航生だったか...
そう、俺は慈しまれたからこそこうして生きている。
「ねえ、充彦...」
「ん? どした?」
「赤ちゃん...欲しいね。俺には無理だけどさ、なんか充彦の子供を抱っこしたい...」
「俺は勇輝の子供抱っこしたいけどな」
「......俺、男でごめんね...」
思わず出た言葉に目を見開くと、充彦は少しムッとした顔でコツンと額を叩いてきた。
「お前といたいの、俺は。アレックス見てりゃ、そりゃあ子供は欲しくなる。こんな可愛いんだ、当たり前だろ。けどな、俺はお前が女なら良かったのになんて思った事なんか無いからな。俺は、今俺の前にいる勇輝って存在がいいの。男とか女とか関係なく、勇輝って生き物が大切なの。わかる?」
「わか...る」
「お前と生きていければそれでいい。子供がいたって上手くいかないものはいかないし、二人だからって寂しくも虚しくもない。俺とお前がずっと幸せでいる事が大事なの。だろ?」
「です...」
充彦がアレックスの頬っぺたを柔くムニムニと押す。
簡単には起きそうにない事を確認して、改めてぬるま湯で湿らせてきたタオルで丁寧に優しくその顔を拭った。
「俺らはね、いいんだよ...子供いなくて。勇輝が俺より子供を優先したら俺がヤキモチ妬くし、俺が子供とばっかり遊んでたら勇輝寂しくなるんじゃない?」
「あ、そうかも~。今日とかでもそうだったけどさ、ほんと全然イチャイチャできないもんね。俺、充彦不足で欲求不満になっちゃう」
「そりゃ、俺の方だっての。勇輝ママが子供に独占されるとか、考えるだけで頭とチンポ爆発するわ」
「充彦ママじゃないのかよぉ」
「おいおい、毎晩種付けされてんのは誰だ?」
「一向に孕む気配がありませんねぇ」
「よし、今日は孕むまでグッチョングチョンにしてやるからな」
「うわ、今日はやめて~。たぶん俺、死ぬほど眠いと思う」
「やめてやんないっての。アレックスに構ってばっかりで、俺をほったらかしにした罰だ」
「んもう、充彦の鬼!」
「何それ、今更?」
お互いの顔を見合わせてクスクスと笑う。
アレックスを起こさないように小さな声で...でも楽しくてつい笑う。
充彦といるから笑う。
そしてこれからもきっと...ずっと笑ってるんだろう。
「充彦...これからもよろしくね」
「こちらこそ」
ゆっくりと顔を近づけていく。
もう少しで唇が触れ合う...というところで、いきなりパチッとアレックスが目を開けた。
ヤバい、また泣く!?
身構えようとした瞬間『ピンポーン』とインターホンが鳴り、それが誰なのかわかってるかのようにアレックスはキャッキャッと明るい声を上げた。
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