22 / 163
第22話
「もしかしなくても奏真に惚れてる?」
コソッと耳打ちされた言葉に、秀一は盛大に噎せ返った。
「ゲホッごほっ…ゴホッ!なん、なんで!なんですか急に!」
「あ、図星?流石俺!」
「いや、いやいやいや!なんなんですかあんた!」
「俺?俺は望月 剛 もうすぐ29歳!ピアノ弾いたり教えたり調律したり色々してます〜あ、これ名刺!」
「あ、勅使河原 秀一25歳サラリーマンです…て、違う!」
「あっはははお兄さん面白いね!」
男、改め望月は手を叩いて大喜びしている。盛大にバカにされているような気がしてならない。
落ち着け、と秀一は大きく大袈裟な深呼吸を一つして、残り少ない水を煽り、極力小さな声で反論した。
「俺も桜井さんも男です!ほ…惚れてるなんて、そんな、迷惑でしょう!」
桜井に惚れていることは否定しない。誤魔化しようのない事実だからだ。けれど、迷惑なのも間違いない。こんな小さな店内で、桜井本人に聞こえてしまったら、もう来れなくなる。それだけは勘弁してほしかった。勝手に想いを寄せることくらいは許して欲しかった。
ちょっと声が震えたのは、多分気付かれていないだろう。
秀一のギュッと握られた拳には気付いているのかいないのか、望月はゆったりと頬杖をついて秀一に微笑みかけた。
「迷惑ではないと思うけど。奏真そこら辺寛容だし、本人もまぁ一応両刀なんじゃねーかな。」
さらりと暴露された事実に、秀一はピクッと身体が跳ねた。
両刀?
両刀って、バイセクシャルのこと?男も女も恋愛対象っていう人たちのこと?桜井さんが?
警戒心を剥き出しに、且つ興味津々に望月の整った顔を覗き込むと、望月は至極真面目な表情で爆弾を投下した。
「だって俺ら大学んとき付き合ってたもん。」
その爆弾をまともに食らった秀一の手からスルッとフォークが滑り落ちて、カランと虚しい音が響いた。
ともだちにシェアしよう!