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第22話

「もしかしなくても奏真に惚れてる?」 コソッと耳打ちされた言葉に、秀一は盛大に噎せ返った。 「ゲホッごほっ…ゴホッ!なん、なんで!なんですか急に!」 「あ、図星?流石俺!」 「いや、いやいやいや!なんなんですかあんた!」 「俺?俺は望月 (つよし)もうすぐ29歳!ピアノ弾いたり教えたり調律したり色々してます〜あ、これ名刺!」 「あ、勅使河原 秀一25歳サラリーマンです…て、違う!」 「あっはははお兄さん面白いね!」 男、改め望月は手を叩いて大喜びしている。盛大にバカにされているような気がしてならない。 落ち着け、と秀一は大きく大袈裟な深呼吸を一つして、残り少ない水を煽り、極力小さな声で反論した。 「俺も桜井さんも男です!ほ…惚れてるなんて、そんな、迷惑でしょう!」 桜井に惚れていることは否定しない。誤魔化しようのない事実だからだ。けれど、迷惑なのも間違いない。こんな小さな店内で、桜井本人に聞こえてしまったら、もう来れなくなる。それだけは勘弁してほしかった。勝手に想いを寄せることくらいは許して欲しかった。 ちょっと声が震えたのは、多分気付かれていないだろう。 秀一のギュッと握られた拳には気付いているのかいないのか、望月はゆったりと頬杖をついて秀一に微笑みかけた。 「迷惑ではないと思うけど。奏真そこら辺寛容だし、本人もまぁ一応両刀なんじゃねーかな。」 さらりと暴露された事実に、秀一はピクッと身体が跳ねた。 両刀? 両刀って、バイセクシャルのこと?男も女も恋愛対象っていう人たちのこと?桜井さんが? 警戒心を剥き出しに、且つ興味津々に望月の整った顔を覗き込むと、望月は至極真面目な表情で爆弾を投下した。 「だって俺ら大学んとき付き合ってたもん。」 その爆弾をまともに食らった秀一の手からスルッとフォークが滑り落ちて、カランと虚しい音が響いた。

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