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第34話

作りましょうかって、手料理? いや、いつもお店で作って貰ってるけど!客にじゃなくて、俺に、風邪引いてる俺のために栄養満点手作りごはんを作ってくれるってこと? あれ?作るってどこで?お店?それとももしかして桜井さんの自宅?まさかまさか俺ん家!?やばい、散らかり放題! 「あ、やっぱいきなりこんなこと言われても迷惑ですよね?」 「いえ!全然!全く!是非お願いしたいです!」 河が氾濫したかのように湧き出る感情を無表情で処理している秀一を見て困っていると勘違いしたらしい桜井が引き下がる前に秀一は食らいつく。 こんな機会そうそう無い。逃すわけにはいかない。すぐにでも帰って寝たいくらいの体調不良も忘れた。プリンしか食べられなさそうだった食欲も全快、腹の虫が今にも主張しそうだ。現金だと言われようがなんだろうが桜井の手料理が食べたい。 「よかった。」 ホッとしたようなちょっと照れくさいような、へにゃっと微笑んだ桜井がもう可愛くて可愛くて、身体中が発火したように熱くなったのはきっと熱のせいじゃ無い。 「うどんがいいですか?おかゆにします?俺は風邪の時いつもうどんなんですけど…」 熱に浮かされ恋に沸いた頭にはこんな何でもないセリフでさえ『お風呂にする?ごはんにする?』という新婚さんの会話みたいなセリフに聞こえてきて、秀一の顔はますます締まりがなくなった。 二人連れだってスーパーを歩くことの何と幸せなことか。 律儀に一つ一つ好き嫌いを確認しながら食材をカゴに放り込んでいく桜井をにやにや眺める秀一はさぞ不審だっただろうが、そこは風邪のお陰でマスクをしていたのでバレずに済んだ。 風邪、最高。 なんて思ったのは内緒である。

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