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第33話

意外な一面を知れて一人でほんわかしている秀一をジッと眺めていた桜井は、徐に口を開いた。 「…何ですか、だらしないとかわかってるんで言っていいですよ。」 「えっ!?あ、違う違います!」 「じゃあ何?」 ちょっとムッとした表情を見せる桜井は子供が拗ねているようで可愛らしい。本気で気を悪くしているわけではないのはわかるが、秀一はわたわたと両手を振って大袈裟に取り繕った。 「えと、なんか意外だなって…俺料理できなくて毎日弁当とか惣菜ばっかだから親近感っていうか…桜井さん、なんかインスタ映えする生活してそうだから。」 「ぶっ!男の一人暮らしでインスタ映えはないでしょう。」 「だ、だってオシャレなカフェのオーナーさんだし、料理もできてコーヒー淹れるのも上手だししかもピアノが弾けるとか!セレブっぽいです!」 「いやいや、店維持してピアノのメンテナンスして、一人食ってくのがやっとですよ。カップ麺の安売り大好きですから。」 くつくつと楽しそうに笑う姿にホッとする。 こんな風に他愛のない話が出来るだけでも幸せだ。桜井のこんな楽しそうな顔を見ることができるなら風邪もたまにはいいな、なんて思ってしまう程度には。 秀一は体調の悪さも忘れてにへらと頬を緩ませた。 桜井は一通り笑うと、もう一度秀一のプリンだらけのカゴの中をじっくり見て口を開いた。 「…よかったら、俺何か作りましょうか。」 という、衝撃の言葉と共に。 「えっ…え!?え!?」 「あ、いや迷惑でなければですけど…プリンばっかりじゃ偏るし。」 「えええ!?」 「ちょ、声でか…」 「あ、すみません!」 場所も忘れて叫んでしまった秀一を周囲がジロジロと遠巻きに見てくる。その視線に秀一よりも早く気が付いたのは桜井の方で、桜井の苦笑を見ると急に羞恥心がこみ上げてきた。 同時にじわじわ湧き上がるのは、歓喜の感情。桜井の申し出が、漸く頭の中を巡って理解するに至ったのだった。

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