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第32話

「桜井さん…買い物、いつもここでしてるんですか?」 「ん?うんまぁ大体。俺店の2階に住んでるんでここが一番安くて近いんですよね。」 「店の2階…そっか、そうですよね。」 夜に会った時も桜井は店に消えていったし、この前タオルを借りた時も2階に消えた。秀一が住むアパートの最寄駅すぐにあるTräumereiの2階なら、薄々気付いてはいたが、結構ご近所さんだ。 もしかしたら今までもこのスーパーとか駅前のコンビニですれ違ってたりして。そう思うとなぜかちょっとだけ嬉しくなった。 「勅使河原さん、プリンばっかりですけど大丈夫なんですか?」 「あ、アイスも買って行こうかと…」 「いやそうじゃなくて…卵とか、肉とか魚とか。」 「え?卵ですよね?プリン。」 「あ、うん…卵ですね…」 桜井の頬がちょっと引き攣った気がする。引かれたかも。恥ずかしい。 ちょっとバツが悪くなりながら視線を下に落とすと、桜井が手にしたカゴの中身が目に入った。 その中身を認識した瞬間、秀一は目を疑った。 「えっ!?ちょ、桜井さんカップ麺ばっかじゃないですか!」 「あー…はい、いつもです。新商品とか出てると買っちゃいますね。」 「嘘でしょ!?お店の料理めっちゃ美味いのに!」 「あ、ありがとうございます…うーん、だからですかね?もう自分のは面倒で。帰ってまで包丁握りたくないっていうか、火も使いたくないし洗い物も面倒だし。」 あんぐり口を開けた秀一に、今度は桜井の方がバツが悪そうに笑った。可愛いけど衝撃だ。家でも優雅にクラシックをかけながらお洒落なサンドイッチやパスタにコーヒーを飲んでいるとばかり思っていた。 けれど逆に親しみが湧いて、秀一はちょっとホッとした。 綺麗で優しくてお洒落なカフェのオーナーさんで、ピアノが上手でお客さんにも大人気。なんの取り柄もない、仕事中も怒られてばかりの冴えないサラリーマンの自分とは大違いの人だけど、家の中では案外似たようなものなのかも。 秀一は桜井のカゴの中でひしめき合うカップ麺達を見て、知らず笑顔になった。

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