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第31話

「ぶえっくし!!!」 案の定風邪を引いて寝込むこと3日。一向に回復の気配を見せないまま冷蔵庫の中身も空になり、秀一は途方に暮れていた。 「あ〜〜〜…病院行くか…」 ピピッと小さく鳴いた体温計を見ると未だに8度を超えている。朝も昼も夜もないくらいに寝ているというのに。薬も飲まずろくなものも食べず寝ているだけでは治らないということか。 冷蔵庫の中もマヨネーズとケチャップしかないことだし、病院に行った帰りにスーパーに寄って来よう。 時計を見れば午後4時前。今ならまだ午後の診療に間に合うだろう。秀一はのろのろと着替えて雑に顔を洗い、ふらふらとした足取りでアパートを後にした。 ─── 「ふ、ぶ、ぶえっくし!あーちくしよう!」 待ち時間1時間を経て3分の診療を終え、更に薬局に寄って30分。時刻は既に6時近く。秀一は季節外れの厚着とマスク姿で駅前のスーパーを危うい足取りで徘徊していた。 籠の中にはプリンの山。食べやすくてなんとなく栄養がありそうなものというイメージだ。滅多に風邪を引かない秀一は風邪の時にいいものなんて知らないし、そもそも料理が出来るわけでもない。 こんな時一人暮らしは不便だ、と思う。飯も自分で用意しなければならないしなにより寂しい。誰かと話がしたい。美味しいサンドイッチとカフェオレが飲みたい。いやもうハッキリ言って桜井に会いたい。あの優しい笑顔に癒されたい。桜井の手作りごはんを食べて看病されていつしか眠って、起きたら桜井がピアノなんか弾いてたりしたらもう最高。 なんて妄想をしたところで虚しいだけだ。もう疲れたし、なんとなくアイスでも買って帰ろうかと踵を返した時。 「あれ、勅使河原さん?」 秀一は考えるよりも先にバッと勢いよく振り返った。 「え、やっぱ風邪引きました?あの日結構降ってましたもんね。」 ラフな格好をして買い物かごを手にし、肩を竦めて苦笑いする桜井の姿に、秀一は一気に身体が軽くなった気がした。

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