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第51話
梅雨の時期、貴重な快晴。
昨夜の雨の名残が朝日に照らされキラキラ輝く紫陽花の花はなんとも見ていて気分がいい。
日曜の朝一番、まだ人気がないのをいいことに鼻歌を歌いながら秀一は駅前を通り過ぎてちょっと奥まった裏路地を進む。
少しすると辿り着く、レトロで小洒落た木造のカフェにOPENの看板がかかっているのを確認して、秀一は立ち止まった。
「すーーー…はーーー………」
先ずは深呼吸。
Tシャツをピッと引っ張って整えて、ハンカチでかいてもいない汗を拭く。ジーンズのポケットがもっこりしないように丁寧に畳んで入れて、最後に髪の毛をちょっと整えて─
「何してんの?さっさと入れば?」
「ギャッ!!」
───
穏やかな日差し、ゆったりとしたクラシックのBGM。パンとコーヒーの良い香り。
優雅な朝をより贅沢な時間にしてくれるのは、オーナー桜井の笑顔だ。
「はい。カフェオレちょっと待っててな。」
「はっはい!いただきます!」
ニコッと微笑む桜井の笑顔がちょっとはにかみ気味でただただ可愛い。
あの二日酔いの情けない告白で始まったお付き合いから初めての逢瀬。気恥ずかしいのは自分だけじゃないのかもしれないと思うと、耳の後ろが擽ったい気分だった。
それに恥ずかしがっているのも可愛い。
昨夜上司に付き合わされて終電まで飲んでいたにも関わらず早起きした甲斐があるというもの。
「昨日も仕事だったんだろ?」
「終電まで飲んでました…」
「げ、マジか。ゆっくりくれば良かったのに。」
だって、早く会いたくて。
とは言えないヘタレな自分が憎い。
カウンターの向こうでテキパキ動きながら話もしてくれる出来たばかりの恋人の姿を凝視する。昨日の疲れも吹っ飛ぶというものだ。
デレっとした顔を誤魔化すためにこんがり焼けたトーストにバターをたっぷり塗っていると、桜井がコーヒーカップを二つ持ってカウンターから出てきた。
「はいカフェオレ。」
「あ、ありがとうございま…えっ?」
カップを受け取ろうと手を伸ばすと、ヒョイッと目の前からカップが消えた。
「敬語、やめるんじゃなかった?」
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