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第50話

桜井の形のいい唇がゆっくり開かれる。秀一は覚悟を決めてグッと歯を食いしばった。 「知ってる。」 「そう、もう知られて…え…」 「知ってる。」 「なんで!!」 「なんでって…わかりやすいから?」 「いつから!!!」 「えー…名前聞かれた頃かな?もしかしてそうなのかなーと。」 それって俺が自覚するよりも前から気付かれてたってことじゃ。 秀一は肩どころか全身から力が抜け落ちてその場に座り込んだ。恥ずかしいやらなんやらで顔が真っ赤になったり真っ青になったり忙しい。 そんな秀一の前に、桜井もしゃがみこんだ。 「…だから、なんで逃げたのかなって。俺の勘違いだったのかなーとか、気の迷いだったのかなーとか。それとも元々ノンケでなかったことにしたいのかなーとか。俺もそれなりに悩んだんですけど。」 「うっ…すみません…」 猫背の背中をさらに丸めて情けない謝罪をする秀一に、桜井はクスッと小さく笑った。その笑顔にもう怒りは見えない。 「で?」 「…え?」 「告白して終わりですか?」 ちょっと楽しそうな桜井が何を言いたいのか一瞬間を置いて理解すると、秀一の顔はボンッと火が噴いたように赤くなった。 好きだって言って、その先って、付き合ってくださいだよな? ドクンドクンと心臓が壊れそうなほどに早鐘を打つ。 そこまで言わせてフラれるなんてことある?普通ないよな?じゃあ、期待していいのか?本当に? そろりと視線をあげると、桜井の柔らかい色の瞳の中に自分がいた。 あ、言えそう。 そう思うや否や、ぽろりと、本当に極自然にぽろりと言葉が出た。 「好きです…俺と、付き合ってください。」 蕾が花開くようにふわりと微笑んで頷いた桜井は、綺麗で可愛くて可憐で淑やかで、ありったけの語彙を掻き集めても足りないくらいに愛おしくて、秀一は思わず号泣した。 「ところですげー顔色悪いけど大丈夫です?」 「ふっ…二日酔いで…!うっ、うえっ…」 「マジか。薬あるけど飲みます?なんか食ってからの方がいいと思うけど。」 「と、豚汁とカフェオレがいいです〜〜〜ッ!」 「食べ合わせ最悪だな…」

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