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Only one/12
なんて典型的なツンデレ…!!
姫井は猛烈に後悔していた。なんて恥ずかしいことを口走ってしまったのかと真っ赤になって、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られて今度は真っ青になった。
これは、もう、自分で笑い話にするしか無い気がする。勇気を振り絞って、姫井は不自然な笑みを貼り付けて顔を上げた。
「な、なーんて、言ってみたり…!」
「ぶはははははは!!!マジかお前、ツンデレってキャラじゃねーだろ!!」
「わ、笑うことなくない!?酷くない!?」
「いや笑うとこっしょ!!」
ヒィヒィ言いながら腹を抱えて笑っている望月を恨みがましく睨むしかできない。ツンデレなんて可愛げのあるキャラじゃないのは事実だ。事実だが、人の決死の告白を、そんな勢いで笑い飛ばすことないじゃないか。
小動物が怯えながら精一杯威嚇するようなその姿に更にヒートアップしていよいよ目に涙を浮かべた望月は、ひとしきり落ち着いたところで目尻の涙を指先で拭いながら長い足で姫井に歩み寄る。僅かに持ち上がった口の端が妖しげな雰囲気を持っているように見えて、それでいて瞳の中に見えるのは温かな灯火のようで、そのギャップに戸惑いを隠せず動けなくなった姫井は、整った顔に上から覗き込まれて益々真っ赤になった。
「なん、何…?」
「ん?いやいや品定めですよ。」
「失礼だな!!」
渾身の反抗もわははと軽く受け流された。
どうにも、この男を前にすると調子が狂う。数多の経験はまるで役に立たない。いつもこんな時どうしていたっけ?少なくとも、こんな風に唇を尖らせてだんまりを決め込むようなことはなかった。全てこの顔が悪い。かっこよすぎるこの顔が悪い。
全ての責任を望月に押し付けようとしたその時、長い指先に顎を捉えられ尖らせた唇を柔らかい何かが掠めていった。
「いいぜ、なってやるよ君のオンリーワン。俺の10年越しの片想いを忘れさせてくれるんだろ?」
「…やっぱり好きだったんじゃんアイツのこと!!」
「だからぁ、そんな安い言葉で片付けんなって。奴はもはや俺の生き甲斐。」
「どんな執着心だよ…!!」
生き甲斐以上になれって、じゃあ一体何になれというのか。ああでもこれって、一応、決死の告白を受け入れてもらえたということなのだろうか。通勤電車の中で一目で恋に落ちて、満員電車の隙間からそっと見つめるだけだったこの人の、隣に立って良いのだろうか。
唇に残った感触がその答えを示している。姫井は震える指先でその感触をなぞり、じわじわと湧き上がる歓喜に頬を染めた。
「ところで君、名前なんだっけ?」
「嘘でしょ!?!?」
前途多難なこの恋は、まだ始まったばかり。
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