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第6話

「まだ咲きませんねぇ。いつ咲くんですか?」 「だから、いつ咲くか分かんないってさっきも言っただろ」 3本目のビールを飲みながら、龍二は何度目かのため息をついていた。さっきから何度もいつ咲くか分からないと言っているのに、リタナはいつ咲くのかと聞いてくる。 聞けば、リタナの国では植物はほぼ育たないらしい。だから、花なんて開く瞬間など見たことがない。だからこそ見たくて、見たくて、何度もいつ咲くかと聞いてしまうと自分で言っていた。 興奮するのも分かる。龍二は、リタナの姿を見てそう思う。何せ、自分がリタナと同じような姿だったからだ。昔、元カレが初めて月下美人を持ってきた時のことだ。 花なんて、小学校の観察日記以来育てたことのない自分には関わりのないものだった。興味すらなかった。でも、元カレと一緒に月下美人の世話をしていくうちに、愛情がわいた。花が開く瞬間を見た時は、泣いたぐらいだ。 咲くまでは、あんな風にキラキラしてたっけ。 「龍二?泣きそうな顔して、どうしました?」 「思い出してたんだよ。いろいろと、」 気づけば、龍二はリタナに過去のことを話していた。小さい頃から、今までのこと。元カレのことはちょっと話しづらかったが、リタナは黙って相づちを打って聞いてくれた。 「龍二は、素晴らしい恋していたんだね。相手は、男としてはダメと思うけど」 「まぁ。でも、悪いことばっかじゃなかった」 別れたばかりの頃は、何度も元カレを恨んだりした。離婚すればいいと、地獄に堕ちればいいと。苦しめばいいと。 でも、1人で月下美人が花開く瞬間を見てはそれが薄らいでいった。 そして今回は、龍二の隣にはリタナがいる。 「ボクの名前、ボクの国の言葉で“一緒に”という意味があるんです。だから、一緒に見よ!咲く瞬間を」 「――――――いいよ」 頬を優しく撫でられる感覚がして、龍二はゆっくりを目を開いた。パチパチと瞬きをすれば、隣で寝ているリタナの笑う表情が見えた。だからと龍二も寝起きだが笑えば、リタナはもっと笑った。 「起きた、龍二」 「ん。今何時?」 「夜中の1時だよ。ずいぶん早いおはようだ」 そう言うと、リタナは龍二の頬にキスをした。だから龍二も同じように、リタナの頬にキスをする。 「果実酒、飲む?」 「んー。それよりも、果物が食べたい」 「オッケー」 龍二リクエストの果物を用意するため、ベッドから起き上がるリタナ。果物を食べたいと言ったが、ベッドで食べるのはどうかと思い龍二も起きる。 起きてちらりと見えた月下美人。いつの間にか花が開きかけていた。 「リタ!リタナ!早く!!」 「どうしたの!?」 「月下美人が開きかけてる。ほら、一緒に見ようぜ」 あの時、初めてリタナと一緒に月下美人が花開く瞬間を見ようとした時。その時は運悪く花開くことはなく。リタナが残念がっていたのを覚えている。 だが、どうしても花開く瞬間が見たいリタナは毎日のように龍二の家に来た。時には泊まり込んで。それから1週間と2日後に咲いた。 それからずっと、リタナと一緒に見ているのだ。 「今回も無事に見れたね」 「ん」 「また来年、一緒に見ようね龍二」 「おう。リタナと一緒に、な」 END

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