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「……おい、結螺」
夜見世が始まる前。
龍次の部屋の前を通った僕に、廊下に顔を出した龍次が声を掛ける。
「さっき、用があって俺の部屋に来たんだろ。……何だ?」
「……」
ふい、とむくれた顔を逸らし、龍次の横を通り過ぎようとする。
その態度がしゃくに触ったのか。龍次の片眉が吊り上がり、僕の二の腕を掴んで引っ張る。
「……まさかと思うがお前……
俺が見世に出す前の遊男に手ぇ出したとか、思ってねぇよな?」
そのまま強く引き寄せられ、龍次の匂いが鼻孔を擽れば……不覚にも大きく胸が高鳴った。
それを隠すように、眉根を寄せて龍次を睨み上げた。
「……単なる、身体検査でしょ?」
そう言ってむくれたまま目を逸らすと、龍次が大きな溜め息をつく。
「単なる、『仕込み』だ。
受け入れた事もねぇアソコを解して、客にぶち込まれても傷付かねぇ様にするんだよ」
龍次の汚く吐き捨てた言葉に、喉の奥がぐっと締まる。
「……僕にはそんなの、無かった…」
恨めしそうに喉奥から言葉を吐けば、一瞬だけ龍次の目が見開かれる。
「……そりゃ、………お前は、感度が良すぎて……」
……感度、感度って。
そんなに良すぎるんなら、丁度良くなるように仕込めばいいだろ……!
逸らしたままの瞳が、涙でじわりと潤む。
その様子に、龍次が再び大きな溜め息をついた。
「……仕込み中に、遊男が果てるのは禁止されている。
だから、お前には出来なかったってだけだ」
「……」
確かに僕は、龍次に陰部を検視される際、太腿に手を掛けられただけで感じてしまい、声が漏れてしまった……
……けど。だからって。
何もいきなり客の前に、経験の無い僕を放り出さなくたって……
「…ぅ、んっ、…!……ぅう、んンっ!」
気を逸らそうとしているのに。
強い刺激のせいで、ガクガクと腰が震える。
蒸し暑さとは違う熱さ。
身体中の血液が沸騰し、末端にまで押し流される。
上気した熱のせいで、汗で肌がしっとりとしていて。
気が遠くなりそうな程、まだ夜は長い──
「……えっ。僕はあったよ、仕込み」
日が暮れ妓楼に大行灯の光が灯り、夜見世が始まった時の事が思い出される。
格子前には格上の花魁が座り、その奥の奥、光の届かない所に僕と夕凪が座っていた。
「あの仕込みなんだけどね………」
身を寄せた夕凪が、僕にそっと耳打ちする。
「……こんだけ解れりゃぁ、潤滑油もいらねぇな」
舌攻めを止めた客がそう呟き、僕の上に覆い被さってニタニタとした厭らしい顔を近付ける。舌舐めずりをしながら。
「……」
内腿に男の怒張が当たり、既に先走った液がそこを汚す。
手拭いを入れられたまま、首元に顔を埋められ、当てられた熱に其処を強く吸われる。
……ぃた、……
チリ、とした痛み。
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