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暑いよね!
夏!
夏だぜイエイ!!
夏、つったらやっぱバカンスでしょ?
こう、海なんて行っちゃったりして、青い海、白い砂って感じでそんだけでテンション上がるよね!
んで、波打ち際で俺が水をかけるわけ。バシャーと。丹生田 に。
「こら、やめろ」
とか言って俺にも水かけるんだ! んで「やめろよー」とか言ったりして!
丹生田は「おまえが先にやった」とか淡々と言うわけ。俺は「うっせ!」とかってもっと水かけるんだな~
そうすっと、丹生田も「やめろと言っている」とか言って俺に水かけ返したりすんのっ! 丹生田ってば手とかデカいし、俺もびちゃーとかなっちゃってさ!
「もうやばいって~」
「おまえが先にやった」
なんて、きっと丹生田は照れくさそうに怒った顔して言うんだ!
「このぉ~~」
なんつって俺は丹生田にもっと水かける。丹生田逃げる。おっかける。丹生田反撃する。んで、終いにもつれて海にばっちゃ~ん! なんつって倒れ込んでさ! 二人してずぶ濡れになって、ぎゃはぎゃは笑ってバカやろっ! みてーな!
暑いけどめっちゃ楽しいぜっ! 輝け青春っ、的なっ!!
けどっ!!
「あっちぃ~~~~~っ!!」
妄想も尽き果てて叫んだ俺に、唸るような低い声で丹生田が言う。
「うるさい」
「だって耐えられっかよ! なんだこの暑さっ!」
俺と丹生田は氷をめっこし浮かせた金 タライに毛臑 丸出しで足突っ込んで、うちわを猛烈に使ってる。丹生田は扇子だけど。
「暑いのはおまえだけじゃ無い」
うっそりとした低い声も、黒目の大きい鋭い目つきにも、いつもなら癒やされる俺だが、とにかく暑いのだっ!!
俺、藤枝 拓海 、19歳。七星大学経済学部二年。んで、同じタライに足突っ込んでる丹生田 健朗 はタメで理数学部。この大学の寮で同室なんだけど。
窓が一つしか無い部屋よりココ、つまり食堂の方が風が通るし、なんぼか涼しい。それにココなら、おばちゃんプレゼンツの氷プラス水アンド金 タライつう涼グッズがある理由 で、ゆえに俺らの他にも同じような状態の奴が十人くらいいて、天井に取り付けられてるガタボロ扇風機の首が自分の方に回ってくるのを待ちながら、それぞれ扇子やうちわを猛烈に扇いでる。
つっても今日は嫌になるほどの上天気。風も全く無い炎天下。食堂の空気をかき混ぜるだけの扇風機なんて何の役にも立たない灼熱。それでも自分の部屋よりはマシだからここにいるけどっ!
「くっそ! あっちぃ~~~!!」
俺は皆様の気持ちを代弁するためにも声を張り上げる。
「うるさい」
冷静な声出してるけど、甚平 の襟元に扇子で風送り続けてっし(コレがまたかっけー!)、汗でちょい甚平湿ってるし(コレがなんつうか色っぺー!)、丹生田だって暑いんだよ。
分かってるっつの! 分かってっけど!
理解してようが暑いモンは暑い!
「あつ~~~~~~っ!!」
なんで声上げつつジタバタ足動かす。したらタライの冷えた水がバシャバシャ跳ねて床が濡れる。俺と丹生田の毛臑も濡れる。
けどちょっと気持ちよかったりする。きっと丹生田も同じ。だって文句言わないし、扇子使いつつちょい口の端が上がってる。おおレア、とかって嬉しくなる。
俺ってば、この丹生田に片思い中だったりする。
百九十センチ以上あって、がっしり逞しくて、目つき鋭いしあんま笑うコトも無えし、見た目でびびるやつ多い。けどいつだって冷静で、声を荒げたトコなんて一回しか見たことねえ。
実はめっちゃ優しくて穏やかで、ちょいガラスハートなトコとか可愛くて。
そんで、すっげえ良い奴。
まあかっけーんだよ、とにかく。太くてまっすぐな眉とか、黒目のでかい鋭い目とか、厚めの唇とか、太い首とか逞しい腕や足とか、いつまで見てても飽きないんだけど。
剣道部で昨年国体にも出た本物の猛者 なのに意外と細かくて、数学が大好きでほっとくとずっと数字弄ってたりする。正確なこと以外くちに出すのイヤだから言わないようにしてるんだって。そゆトコもカワイイんだよなあ~
――――とかってぼんやり丹生田を見てると、逞しい首筋のとがった喉仏が上下に動き、そこを汗が流れていった。
じぃっと見ちまってたのに気づき、いやいやいや、と首振って視線を引きはがす。
(やーべ、こんな風に見てたらバレちまう。丹生田にバレたらぜってー嫌われるし、キモいとか思われたら軽く死ねるし、用心しなきゃって、いつも思ってンのに、ついつい出ちまうんだよな)
ぐっと奥歯噛みしめ自制を自分に言い聞かせる。
あ~もう、我ながら沸いてると思うよっ!
「わーかってるよっ!!」
だから俺はやけくそ気味に声を張り上げ、めっちゃうちわ扇いで誤魔化した。
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