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やるときはやる!
けっこう広い部屋に一歩足を踏み入れると、スウッと汗が引いていく。
姉崎の部屋、二階の執行部室は、フツーの部屋の倍の広さあるし簡易キッチンあるし冷蔵庫も置いてある。そんでエアコンあるから、やっぱ涼しい。……が。
「……掃除担当っていつから来てねえの?」
なぜかTシャツ脱いで着がえてる姉崎に聞いてみた。
「ん? 確か七月の二十五日……あたりに帰省したから……」
「はあ? たった十日かそこらでコンナンなったのかよっ! どういう生活してんだっ!」
服と紙が部屋中に散乱して、所々で積み上がって倒れそうになってたり、通販らしい箱や袋があちこちに積んであったりする合間を埋めるようにコンビニ袋やビールの空き缶なんかが転がってて、足の踏み場も無い。
デスクの上に紙類とかファイルとか積み上がって崩壊寸前の大阪城みたいになってるし、各部屋に設置してあるクローゼットというかロッカー的な収納はドアも引き出しも開けっ放しで、そっから漏れ無く高そうな服が垂れ下がってる。
かろうじて無事なのはベッドの上だけだ。
帰省する前にゴミをココに運んでるヤツとか居たとしても驚かない。いやぜってー居るに違いない。そんくらいの惨状だ。
「なにいきなり怒って。僕って集中クセあって、色々見えなくなるからね。ゴミ落ちたとか、そんな些細なこと気にしないよ?」
些細なゴミどこじゃねえ、三人部屋の倍はあるのに、まるでゴミ溜め。
「食いもんが無いだけマシか」
ため息混じりに丹生田は言った。まあ確かに食い散らかしたナマモノは見えない。コイツの部屋は涼しいから酒盛りの場所になりがちなはずなんだけど。なんでそう聞いたら、姉崎はヘラッと言った。
「掃除してくれるなら良いよ~って言ってるんだけどね。なぜかちょっと涼んで帰っちゃうんだよ」
「あったりまえだろっ!」
朗らかな声にイラッとしつつ納得する。飲みの前に掃除って、なんのタスクだって話で。俺だったらドア開けた瞬間に回れ右するわ。
とか思いつつ見ると、丹生田の眉間には深い皺ができてる。
丹生田って超きれい好きなんだよ。今まで一回だけ見た怒ったトコって、部屋を散らかした後輩に向けてだったし。
忘れもん取って来いって言われた丹生田の後輩が、誰のが誰のだか分かんねえんで散らかしまくりつつ探し、そのまんまほっといたときだった。部屋に戻った丹生田は、ちょい前に戻って片付けしてた俺見ていきなり怒りの形相で後輩の部屋へ突進し、「出したものは片付けていけ! 今すぐ部屋に来い!」と怒鳴ったのだ。
つまりコレって激怒の寸前まで行くパターンかも。そうでなくてもかなりイラッとしてる。
やべやべ、ダメじゃん、丹生田にこんな顔させちゃダメじゃん。
だからポンと背中叩いて言った。
「あ~、てか丹生田、もういいからぜんぶ捨てちまおうぜ~」
だが偉そうにベッドに寝転がって本を読んでる部屋の主がヘラヘラ言いやがる。
「資料打ち出したのとかアイディア書いたのあるから、それ捨てないでね~」
「……面倒だな」
眉間に皺寄せたままの丹生田がぼそり呟くと、姉崎は片手を上げて「OK了解」とニコニコした。
「報酬はなんでも……」
「つうか自分で選別しろよ」
かぶり気味に言ってやったのに、寝転がったまま手をひらひらさせやがる。
「持ってきてくれたら選ぶよ」
「何様だっ!!」
「出資者様」
「拒否権のない出資者だ。せいぜい集 らせてもらう」
淡々とした丹生田の声に、「仰せのままに」と大仰な口調で言った姉崎は、寝っ転がったままクスクス笑った。
といっても丹生田はやるとなったらきっちりやる男だ。そこがまた良いんだよな~。惚れ惚れしながら俺もせっせと働く。
缶だのゴミだのを拾い集め、紙を姉崎の寝っ転がるベッドへ運ぶのが丹生田、服とかは俺、と自然に役割が決まった。紙を拾い集めたり崩れそうな大阪城をケアしながら判別なんて作業は俺が向いてないし、丹生田は服ひとまとめにして全部捨てそうだし。
そうそう丹生田ってファッションとか全く興味ないけどガタイ良いから何着てもかっこいいんだよ。
なんてこと考えながら黙々と作業する。なんだかんだ言ってエアコンが効いてるから楽だ。
コイツの服って無駄に高級っぽいけど、知るかそんなの、って感じでゴミ袋に詰め込んでく。
「てか十日程度で服とかこんだけ散らかすのってなんで? わざとか? イジメか?」
「だってちょっと部屋出ても汗かくし、気持ち悪いからすぐ着がえるんだよ」
そんで着る物足りなくなりそうだと思って、行きつけの店に連絡して適当に服を送らせた、とか。
「それやってたら思ったより早く減ったからさあ、何回も送らせたんだよね」
「洗濯しろよアホ」
「洗面室も暑いじゃない。行きたくないなあって」
はあ? とか思ったけど、なんだかんだ気分は良くなってる。
だって姉崎って、勉強出来て、スポーツ万能っぽくて、見た目イケてて金持ちで、ケンカつえーし執行部に入るくらい認められてるし。つまりいつもナンでも出来る感出しまくってて、コッチ馬鹿にしてるんだよね。なのにコレってもう人として基本的なトコ抜けてるんじゃねーの?
なんて感じで、こんなダメダメなトコあんだって目の辺りにして、俺も単純だけど、ちょい気分あがってたりして。
なんで武士の情けで高そうな服はクリーニング行きにするよう仕分けして、ロッカーに服を掛けたりしまったりもしてやった。
着がえ用に取り寄せたのは「全部捨ててイイ」らしいから、捨てるのも大量にある。
部屋の主はベッドの上で胡座かいて、丹生田が運ぶ紙類を選別してる。丹生田が「捨てるやつはこっちに入れろ」とか命令するのに「はーい」とか素直に従ってるのがむかつく。
なんだかなあ、丹生田に対しては素直なんだよコイツ。
そんなのにもちょいイラッとしつつ、黙々と掃除するのだった。
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