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事件!?
次の朝。
いつもは俺らに先輩起こす役を押しつける姉崎が、珍しく慌てた様子で俺らを起こして「大熊さんが戻ってない」と言った。
「ああ~、そういや昨日から見かけねえなあ」
「どこに行ったと思う?」
「ええ? わっかんねえよ、そんなん」
珍しく笑ってねえなあ、なんて思いつつ寝ぼけ混じりに答えたら、目つき鋭くして自ら小谷先輩を起こした。
「ほうっておけ。どうせ女の所だろう」
小谷先輩も面倒そうに言って、他の先輩をたたき起こしてる。
「女なんてどこにいるって?」
「どっかで見つけたんだろう。そういうところだけはマメな男だからな」
姉﨑はチッと舌打ちして、「とりあえず鈴木に聞いてみる」なんてラインコールで鈴木を呼び出した。
らしくなくマジになってんな、なんて思って見てたら、やってきた鈴木に「近辺に危険な場所は無いか」とか聞くから、起こした先輩たちとみんなで「大げさな」と呆れた。
なのに姉崎の野郎ってば、ホント見たこと無いくらい、すっげマジ顔で。
「カナダ近くの山中にあるコテージで泊まった時、一人行方不明になって。そいつ昼過ぎに見つかったんだけど、グリズリーの被害に遭ってたんだよ」
みんな目を丸くしてる。
「なにを言い出すんだ」
だってココでグリズリーとか、ぶっ飛びすぎ、あり得ねえじゃん? でも被害に遭った人って…
「え、その人って無事だったの?」
「……命はあるよ」
なんつって意味深に少し笑った。
てことは、その人、死にはしないけどヤバかったってコト? 俺もちょい焦ってくる。
さすがに灰色熊 はいないだろうけど、ヒグマとかいるんだよな? そうだ写真に鹿とか写ってた! 狐とかもいるだろうし。てか狐で死ぬとかナイか!
とかアタマん中でセルフツッコミしてたら、「それひどいな~」のんびりと鈴木が言う。
「姉崎~。確かにココ田舎だけど、そこまで秘境じゃ無いって~」
「……だよね」
ニッと笑った姉崎に、「それにうちにいるし」ニコニコ鈴木が返す。
「あ、そうなの?」
どっか抜けてる二人の会話に「いるってなにが」と入ったのは新山先輩だ。ニコニコしたまま、鈴木は言った。
「大熊先輩だよ。母さんと部屋にいる」
「なんだ、無事なんだね」
ヘラッと答える姉崎。先輩たちも「ずいぶん早起きだな」「なんか相談かな?」とか言ってて、のんびりムード。
「金がかかわることなら俺を通せと言っているのに」
新山先輩がぶつくさ言いつつ出て行こうとした。「ああ、部屋ってどこだ?」通りすがりに鈴木へ聞く。
「たぶん楓の11。いつもあそこ使うから」
ニコニコ答えたのに頷いて出て行く新山先輩を見送りつつ「いつもって?」と聞いた。
業者とかと話す時ってコト? でも普通そういうのって玄関脇の事務所使うんじゃねーの? つうか楓11って客室じゃんね? え、どういうコト?
はてなマーク飛ばす俺に、鈴木はいつも通りののんびりムードで「しょっちゅうだからね」とかニコニコしてる。
「だからなにがしょっちゅう?」
「男連れ込むのが。元気なんだよね、母さん」
意味を把握するのに、ちょいタイムラグ発生。
元気?
うん、お母さん、いつも元気そうだよね。美人だし若いし大学生の息子いるようには見えないつうか。
てかお兄さんって三十過ぎくらいに見えるけど、お母さんがあの人産むって無理ないかな? お母さんこそ三十代に見えるってのに。
いやいやいや、ご家庭の事情があんのかも。そこはツッコんじゃダメでしょ。
じゃなくて、しょっちゅう? えーと、男連れ込む、って言った? つまりお母さんが? 楓11で~、なにをして……あっ!
(そうかつまりナニしてるってコトか!)
理解が落ちて、ホッとして……ちょい混乱。
えっ? つまりどゆこと? お母さんと先輩は部屋でナニをしてて、ナニってつまり……
「はぁ!?」
それってお母さんと大熊先輩が楓11でエッチしてるんじゃん!!
思わず鈴木の襟首つかむ。
「おまえいいのかよソレで!!」
鈴木はいつも通りニコニコして、首を少しかしげてる。ほんわかムードに逆に熱くなる俺。
「なんだよっ! おまえがコンニチワしたトコに先輩のナニ突っ込まれてんだろっ! 怒れよっ!!」
「……藤枝、その言い方は……」
丹生田の控えめな声に「だってそゆことだろっ!!」アタマに血ィ昇っちゃったまま言い返す。
「落ち着け~、藤枝」
「なに熱くなってる」
「おまえが怒るコトか?」
先輩たちは口々に適当くさいこと言うし、鈴木はニコニコだし。
なんか腹立つっ! もっと言ってやろうと口開けたら、鈴木はニッコリと片手上げて俺の肩ポンと叩いた。
「間違いだよ藤枝」
「はあ? なにがっ!?」
思わず怒鳴り返す。けど鈴木はいつも通りのニコニコ顔で首を振る。
「僕は出てきてない」
「出てって……、はあ? なんだって?」
「あのひとから出てない。後妻なんだよ」
え、間違いってソコ? てかそれってけっこう衝撃の事実じゃね? なのにいつもと全く変わらない鈴木に、こっちがちょい引きつつ聞いた。
「え、でも母さんって」
「父さんの奥さんだけど、いちいちそんなふうに呼ぶのもヘンだし、説明も面倒だし、母さんでいいやって」
「そんな理由!?」
いやいやいや、そこじゃ無くて問題は!!
「じゃ不倫じゃん!! お父さんの息子としてソレどうなの!?」
「母さんは独身だよ」
「はあ? どゆことだよっ!?」
「父さん四年前に死んでるし、母さん元気だからさ、一人は寂しいんじゃない?」
「えーと……」
さすがにチカラ抜ける。いつも通りのほけっとした笑顔の鈴木に、思わず眉寄せて聞いた。
「おまえそれでイイの?」
鈴木はきょとん、として「なにが?」と分かってない顔だ。
なんか怒ってんのがアホらしいってか。当事者がコレなんだし、それでイイってコト……なん、かな?
「だから悪 ぃ、つってんだろ~」
ソコに聞こえてきた大熊先輩の悪びれてない声に、全員一斉、渡り廊下方面へ振り向いた。
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