8 / 8

あとがき+α

あとがき  あとがきページ閲覧ありがとうございます。  今回のキャラクターたちは、花の名前から取りました。 「秋桜咲多」はコスモスで、高校数学の三角関数で「咲いたコスモスコスモス咲いた」という語呂合わせの公式があるのでそれを元にしました。「染井エドワーズ八重」は桜に関連した単語から付けました。最もポピュラーなソメイヨシノと江戸緋寒桜。そして桜の八重咲きから。彼視点のタイトルの「バラ科モモ亜科スモモ属」はサクラの分類。 「花水木深月」はそのままハナミズキなのですが、読みを変え「はなみき」にしました。語呂良く「はなみき みづき」にしたかったのですが、「みずき」という感じではなかったので濁点を取りました。「月下美仁」もそのまま月下美人です。仁=尊い/貴い(?)という図式で「よしたか」と読ませています。「風信飛広也」はヒヤシンスです。黒幕的存在の「津端文目」はカキツバタとアヤメから取りました。  18禁短編BL/ML創作は基本的に4話完結なのですが今回は7話になってしまいました。一人称の書き方の感覚がなかなか戻らず、登場人物が多いというのもあります。終わり方も少し拗れてしまい、わたくし個人としては消化不良感が否めません。今回で短編を連作を終わらせるかは分かりませんが、まだ続くようであれば違う世界線のまた違う世界観で書いてみたいな、と。今作は閉鎖的な世界で、どういった集団なのか明言はしませんが、ある組織内での話なのでそういう枠は取っ払って。  そんな感じで、あとがきまで読んでくださりありがとうございました!  以下、風信視点「ヒュアキントス」です。 -ヒュアキントス-  () を殺した人間が、人間に溶け込めると思うな。そう言われてオレは何を見ても基本笑ったし、基本冗談を言った。顔も人好きするような油断と隙だらけの目鼻立ちだし、潜入先も馴れ合いの過ぎる甘いところだからと大した緊張感もなく、まるで津端総帥のことなんて全く知らないちょっとイキった期待の新人の(てい)で組長の推薦を受けた形で秋桜さんの元に入った。わずかな期間の差だったけど、すでに潜ませた間諜員は男の身で女の業を背負っているから信用ならないと聞いたし、そもそも内容が秋桜咲多の籠絡だったとかなんとかと聞いた。オレに与えられた仕事は2つ。例の隠し子の監視と護衛。それから組の動向の報告。小さなほつれを見つけては、何かちくちく言う気だ。  オレが同じ所のやつなんて知らず月下美仁…よっしぃとは仕事の枠を越えて意気投合した。最初は哀れみだけだった。津端総帥はよっしぃのことを蔑んだけど、よっしぃからしてみれば生かされるための術だっただけだ。よっしぃのことは幼少期から一方的に知っていた。幼い時からもう津端総帥のお気に入りで、後ろ盾を亡くしたとき、彼は着せ替え人形になった。どれだけ気に入られたってよっしぃにしてみれば強いられた世界で強いられた行為。どんどん綺麗になっていくのを遠くから見ていて、多分碌なことにならないだろうな、ってなんとなく思ってた。よっしぃは頭がいいから色々分かって反抗とかしたのかも分からないけど津端総帥は彼を従順で人語を解するだけの人形だと思ってるから暴力と罵倒を浴びせることも少なくなかった。オレはそういう役目じゃないと他人事だと割り切ってそれを壁越しに聞いたりもしながら勤めていた。  オレが秋桜咲多のもとに潜入することは津端総帥とその周りの人達だけで内密に進めていた。全ては後を任せる隠し子のため。初めて喋った時驚いたものだった。その隠し子は頭は良いし見た目もいいし要領はいいくせ、とにかく変だった。利口な子供を相手にしているような。小綺麗さはあるし清潔感もある。言葉遣いも特に変わりはなく喋り方が少しのんびりしているくらいで、かわいい顔立ちをした小柄な青年と外の若者と何ら変わりはないのに薄気味悪さを感じる。無理かも知れないな、と思った。秋桜咲多と染井八重にべったりな隠し子を傷ひとつ付けず連れ戻すことがじゃない。総帥がこの違和感しかない子供であることに甘んじている隠し子を次に据えることが。本格的に潜入してからはもう事務所には近付かないようにした。よっしぃが秋桜咲多の姻戚になってから少しして、津端総帥を裏切ったと聞いた。身近で起こったことなのにオレは直接は知らされない。回りくどいやり方で知らされる。危ないところにいるんだな。それはそうだろ、だって敵の巣の中にいるんだもん。敵だ。全くそんな認識はなかったのに。だってあの人たちといるのが、楽しかったから。よっしぃの気持ちが分からなかったわけじゃない。止めることも出来たんだけどな。自分の人生を決められない、生きられないってやっぱつらいや。  エドさんはよっしぃを抱えて出て行った。拳銃自殺だから足がつく。どうやって帰る気なんだろう。いや、帰るところなんてもうない。エドさんはその気だ。  オレはなんだか夢の中にいるみたいだった。本当に夢の中にいるらしい、1人ベッドの上で寝る可愛かった年下先輩みたいな元部下。花水木(はなみき)くんと呼ぶことはもう許されない。隣にいた人を連れて行かれ、腕で顔を隠す。目覚めるな。目覚めたって待つのは碌なことじゃない。オレも寝たいなと思った。寝たって覚めたら変わらない。よっしぃはもういなくて、エドさんはもう仲間じゃなくて、っていうかオレがそもそも仲間じゃなかったし、かわいい子供は大切な若様で、帰る場所はお化け屋敷で、頭を下げるのは熱い男じゃなくて狡猾なじいさん。遠くで雷が鳴る。今ならまだエドさんに追い付ける。 『わぬしは津端に何を望む?』  前に訊かれた。でも答えられなかった。何も望まなかった。本当に。ここから出て外の世界で暮らしたい。もしくは感情を消してほしい。それ以外なかったけど、無理じゃん、そんなの。指1、2本で許してくれる?それも無理。オレは知りすぎてしまったから。骨の髄からここにいる。親の名を知る前に津端文目の名を知って、親の名を呼ぶ前に津端文目の名を言った。帰るところがあるにはあるけど、帰りたく、ないな…。手にした拳銃に何となく目がいった。よっしぃ、何考えてたんだよ。よっしぃ。エドさんの指に巻かれたリボンが脳裏に焼き付いている。綺麗に巻かれていた。分からなければよかった。見なければ。訊かなければ。罪悪感と憐憫に手の中の金属を握る。怖いな。怖いわ。撃ち方も知っている。肩にくる衝撃も。痛みだけは知らない。よっしぃ…  エドさんのことが好きだったんだと思う。それはエドさんが秋桜さんに向けるものと同じ。ここで生きるのは難しくないけど。エドさん、ここにいたって、多分オレ。  何度も持ったはずなのに頭部まで持ち上げると重い。小さいのに、人を殺せる。よっしぃを殺した。あの可愛い子から母親を奪った。エドさん…八重さん。引き金に掛けた指に力が入る。楽しかったな。 「風信さん、一緒に寝ましょうよ」 ――花水木くん。

ともだちにシェアしよう!