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第1話 夏の旅、それは恋人に会うための一

夏の旅、それは恋人に会うための 一、 連絡もなしに帰ってきたのは三週間前の一通のメールのせいだった。 七月は耐震補強工事を隣のビルが一年もかけてやるらしい、それならいっそのこと地下鉄一本で通える所にある程度教室を移そうかと思って、その下見やら打ち合わせやら、まぁ初夏のうだるような熱苦しい京都の夜でも…… なんかそんなことがつらつらと書いてあった。 俺は字を読むのが、特に漢字を読むのは苦手だ。 日本の中学の終わり頃からアメリカで生活して、現地校に入ったこともあり大切なことは全て英語で学んできた。 耳から聞こえる日本語はまだまだ大丈夫だけど、漢字はすっかり苦手になったな。 やたらと漢字の多い真名彦のメールを飛ばし飛ばし読んでたらいつの間にか寝落ちしてた。 メールには七月のいつからとは書いてなかったので返信で問うと、十日辺りから八月頭迄は京都に滞在するという返事が戻ってきた。 ちょうどドイツの活動も少し落ち着きを見せたところで、ここいらで少しだけ息抜きしようと持ちかけると後の三人は全員大反対。 笑ってしまうくらいの反対のエールの中をそれなら3日くらいでどうだ!と強引に休みをもぎ取ってボーディングチケットを予約した。 不満そうなメンバーの中には一緒に付いてくるという勢いの奴もいたけど、今回は親戚ごとだと確りと釘を刺した。 まぁ、口説かれてるからそんなのと一緒に行けば真名彦がどんなに拗ねるから楽しみだったんだけど、3日しかない逢瀬を邪魔はされたくない。 俺の心はしっかりと遠距離を軽く跳び越えて彼に向いているんだから。 関空に深夜着いた飛行機は団体客とともに1番遠い第三ターミナルに着く。 団体客に押しのけられながらなぜかカメラを向けられたり、全く深夜なのに踏んだり蹴ったりだ。 深い紫のウエスタンシャツにダメージジーンズ、持ってる中で一番通関に疑われそうなスタイルの俺は勿論余計に質問される。手荷物もしっかり下着まで広げられて、張り切ってすけべなブリーフを待ってきたことをこの時だけは後悔した。 団体バスガイドに引きつられて乗り込んで行く観光客を避けながら深夜客待ちのタクシーに乗る。 ドイツで予約した宿は大阪の難波シティーの側だと告げスマフォのホテル予約サイトを、見せると眠たげなドライバーは意外に軽快なハンドルさばきで車を走らせた。

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