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第3話 夏の旅、それは恋人に会うための三
夏の旅、それは恋人に会うための
三、
淀屋橋から急行に乗ると1時間ほどで京都三条に着く。地下の駅から地上に上がるとそこほもう夏一色の陽光が溢れてサングラスをかけていないと目が痛いほどの日差しだった。
川のそばのせいかねっとりと絡みつくような風に吹かれてナビアプリのとおりにホテルを目指す。荷物を預けてから行く先を考えることにした。それにしても橋の上になんでこんなに人がたむろってるんだろう。一様に川面を覗き込んでる人々に感心しながら俺は青に変わった信号を渡った。
幅の狭い玄関を入るといかにも日本調の飾りに囲まれたフロントが俺を出迎える。
大阪の対応とはまるで違う親しさで荷物を預ける交渉を済ませた。
横のラックの前で英語の観光マップに目を通していると、
隣に立っていたでかい白人の男二人に声をかけられた。
「 日本人じゃないのか?俺たちが案内してやろうか? 」
タンクトップから肉付きの良い肩と上腕から手首までのタトゥーはなんの模様かもわからないほどごちゃごちゃしている。
No thank you だ。行くところは決まってると答えると、
二人は嫌な笑い方をして俺の肩に手をかける。
どうしてやろうかと思ったところでスマフォがなった。
真名彦からの通話だった。肩に乗った手をゆっくりと遠ざけるとスマフォを片手に暑い外に出る。
自動ドアから出た途端、行き交う道路の喧騒と暑さと照り返る熱で
もしもしと応答する声も掠れる。
「 どうした?」
何ヶ月前まで散々聞いたしっとりとした低音の声にすがりそうになる。
「 平気 」
「 何が 」
「 えっと 」
「 今どこだ?」
「 え? 」
「 京都にいるんだろ? 」
その耳の側で紡ぐような声に息が止まる。
「 会いたい 」
「 わかってる、すぐ行くから
どこか教えろ 」
体全体が痺れたように動けない、辛うじて出た吐息で答える。
「 京都三条のホテル〇〇屋 」
「 わかった 」
ここで待ってろという場所が送られてくる、スクショなんかじゃなくてきっちりと文字で打たれているその画面にも泣きそうになる。
サングラスを外して空を見上げる。
強烈な初夏の日差しさへ彼に会える日がこんな天気で良かったと愛おしくなる。
行くのは昼過ぎ三時頃になるからという最後の言葉に、画面の中の見えない相手に深く頷く。
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