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第7話 夜半の夏 二

夜半の夏 二 満足した腹で地下の店を出ると、昼の名残の残る暑さを避け誘われるように川そばに降りた。 過日の豪雨で水の量が多いと思えば、川は小さな段差を落ちるザーという途切れる事ない音をたて、向こう岸からはお囃子の音が途切れ途切れに聞こえてくる。 「 京らしい川の音だな、小さな滝が浅い水深の川に音のアクセントをつけてるんだ 」 初めて京都を訪れた俺には不思議な話だった。 「 川がとても身近に感じるだろう?」 言われてみると確かに他の街中を流れる川とは違う気がする。 「 出町柳のデルタって、どこくらいかな 」 「 あぁ、もっと上の方だ、歩いてみるか?」 「 そう、でもいいや明日どうせ行く場所だから 」 「 明日?」 「 うん、ジャズフェスをやるって誘われた 」 「 誘われた?知り合いにか?京都の?」 「 うん碓氷たちの知り合い、なんか俺のサックス聞いたことがあるとかで連絡が入ったみたいで……」 それから先の言葉はスピードを上げてやってきた自転車に気を取られて続かなかった。 暫し水の流れていく音に耳を傾ける。その耐えることのない水音にさっき灯った欲情も落ち着いてくるようだった。 「 ホテルはこの近くか?」 「 そう、ここから五分くらい」 「 そろそろ行くか、荷物を預けてるんだろ?引き取らなきゃいけないしな 」 「 そう、そうだね 」 道路にあがる階段を半歩ほど後ろから上りながら、浴衣に覆われた広い背中と帯の下の腰を眺める。 逞しいな、着物だとなんでこんなに…… と、又下半身が疼いてくる。 少しもたげてきた雄を指で軽く摩って抑えると、 「 俺、荷物取ってくるから、この辺でまってて 」 と返事も聞かずにホテルまで走った。 ホテルで精算を済ませて荷物を引き取ると、ようやく下腹部も鎮まった。 元の場所に戻るとタクシーを止めて俺を待っている真名彦がいる。 乗り込んだ車は蹴上のホテルまで夜の街を飛ばして行く。 車中何も喋らないのはお互いが車内のその触れそうな距離に火照る身体を抑えているから? きっとそうだ、だってさっきから僅かに触れる相手の指先が微動だにしない。こっちも緊張しきっているのが伝わっていると思うと、もう目のやり場にも困った。 絶え間なく疼く衝動を車内の冷えた空気に晒したままタクシーはホテルに到着した。 ベルマンに簡単に挨拶を返しながらそのまま奥のエレベーターに向かう。 後方のフロントではまだチェックインしている声高の客の声が聞こえてくる。 エレベーターに乗り込むと、たった二人きり、他人のように距離を置き目当ての階まで目も合わせられない。 彼に惹かれ、初めてこれが恋だと気づいた時にもこんなに胸が熔けるように焦れはしなかった。 どうかした?俺。もう立ってるのもやっとな身体は燃えるような熾火に焦らされる。 到着した階のホールに降り立ち、何メートルか絨毯の上を歩くと、 812とプレートの打たれた部屋の前に立つ。 彼が指先にもたげたカードキー。 扉が開いた途端に強引に腕を引かれ、気がついたら浴衣の胸に抱きしめられていた。 仄かな汗の匂いに混じる香り、 凛とした生地越しに浸る熱い身体、 背中と尻を強く抱きしめるその手は強くて執拗で、 あぁ、欲しかった と、そう思った。

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