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第6話 夜半の夏 一

夜半の夏 一 京都三条の駅に着いたのは、三時少し前。 真名彦が仕事で三週間ほど滞在すると知り彼には内緒で訪れた京都の町。 ドイツからの距離はやはり遠い。 湿気を帯びた風と流れる川の音、 空気の匂いの違いに慣れるよう深く息を吸い込んだ。 何故か俺の来るのを知っていた待ち人は浴衣で現れた。 麻色に亀甲模様の入った品の良い浴衣を少し襟を寛げ、背筋はピンと張っている、 歳をいい具合に重ねた厚みの肉体が浴衣で覆われてるのを暫しの間見つめる。 ゆったりと歩く足元はカツカツと石畳にあたり音をたてる。 素足に下駄を履く、焦茶色の鼻緒とその生身の足の指の長さが帯びる色に妙に刺激される。 そしてその足は人二人分の距離を空けて前に立った。 「 夕涼みにいっぱい行くか 」 挨拶も俺がここに来た理由を問う間もなく行く先を促すとそのまま祇園の街の方へ下りていく。 通り沿いの趣のある町屋風情の佇まい、店面はそのままで中はモダンな現代風の店に変えられているのを眺めながら大和大路を歩くと祇園白川のごく小さなビルの地下に案内される。 「 ここ?」 「 ああ、大将の腕がいい、うんと美味いもの食わして貰えるぞ 」 夏の夜を過ごす浴衣姿の粋な男の連れは、薄着のシャツを簡単に羽織った風情の欠片もない俺。 店のドアのガラスに重なって映る姿。 俺来て良かったんだろうな?とマイナスな感情が少し頭をもたげた。 ビールから始まったいっぱいは次々と出される美味いつまみに箸が止まらず、当然酒杯も重なっていく。 今日の鱧は格別に良いのが入りましたから、 と大将に言われた通り、鱧好きだと言う大将のその厚みのある献立に最後まで舌が喜ばされてる。 最後に出されたのは鱧茶漬け。 「 ホテルは移れよ。 蹴上に部屋を取ってある 」 低めた声で何事もないように俺にそう告げると、 「 大将、俺は温燗つけて 」 と店の奥に声をかけた俺の隣に座る男の横顔は、 珍しく火照らした耳たぶの熱さが伝わったきそうだった。 「 未だ飲むのか?そんなに飲んだら…… 」 首を傾けジュンヤを見つめたその眼差しには確りとした濡れた欲望が篭る。 まだ触れてもいない距離に堪らなくなり男の指ごと盃を奪って飲み干した酒。 飲み慣れない杯は唇の端から酒を 滴らせ、 頤を辿る滴を拭おうと延ばされた腕。少し空いた浴衣の袂から男の仄かな劣情が溢れだす。 「 煽るなよ、 」 と聞こえたのは俺の空耳じゃないよね。

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